馬鹿な子ほど何とやら

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 考えごとをしていても、気持ちいいものは気持ちいいもので。愛撫されれば、勃つものはやはり勃つ。  笑夜は不意に記憶の波から帰還し、ベッドに腰掛けた自身の足の間に座り込んで口淫を続ける友里を見下ろした。視線に気がついた友里が目を上げる。 「……ん?」  一音による問いかけに、笑夜は緩く首を振り薄く笑う。 「何でもないよ」  君との出会いやら何やらを思い返してた、なんてドラマティックな答えは返せない。たとえそれが事実であってもだ。 「気持ちいいなって、ぼんやりしてた」  適当な曖昧な、そんな答えが自分らには相応しい。そう考えてから、おかしくなる。相応しい、それらしい、丁度いい──そんな風にして、言葉の定義に従順なのは、なんだか馬鹿馬鹿しくて、そんな酔狂が殊更自分らにお似合いに思えた。 「それより、君も結構キてるみたいだけど?」  そう言って、座り込む友里の股ぐらを足先でつついてやると、彼は、ぐ、とちいさく抑えた声を漏らした。 「欲しい?」  傲慢でお決まりな台詞を舌に乗せる。友里は薄闇にわかるほど目の下を赤くして、注視しなければわからないほど微弱に頷いた。  使い込まれてくたびれたシーツの上に、生白い裸体が転がっている。仰向けに見上げてくる視線は、身体を重ねた回数にも関わらずどこか不安げだ。 「……萎えない?」  不安そうに、友里は言う。何も纏わずするのは、これが初めてだった。その問いに、今まで上だけでも何か着てしたがっていたのは、恥じらいよりも不安が(まさ)っていたからだと知る。 「確かめてみる?」  嗜虐心をくすぐられてはぐらかして見せれば、友里はちいさく笑った。 「いや……大丈夫」 「あ、ひよった?」 「そうじゃなくてさ、笑夜さんがそう言う時は大丈夫なんじゃねぇかなって」 「そう言うって?」 「確かめてみる? って」  よく見ているものだ。少し感心してしまう。自分でも気がついている癖のひとつで、笑夜は肯定を笑みやはぐらかしの言葉で誤魔化すところがあった。照れ隠しにも似ている。格好つけにも近い、その癖を、出会ってまだ数ヶ月程度──半年にも満たない青年に見つけられるとは思っていなかった。
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