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「ただいまあ。今日もありが、うわ!」
妻の声だ。僕は声にならない声で「おかえり」と返す。
「ママー!」
「ぎゃああああ」
子どもの声が大きく響く。妻はゆっくりと僕に近づき、哀れむようにこう言った。
「……シャワー、浴びてきていいよ」
僕は情けない笑顔で大きく頷く。妻は申し訳なさそうな、でも明らかに汚いものに触れる様子で僕から赤ん坊をゆっくり取り上げた。
クラップクラップ、拍手が二回。無事紙切れから僕に戻れたのはよかったのだが。
直前に受けたよだれによって、頭のてっぺんから胸の辺りまでまるでスライムに掴まったようにべっとりと濡れていたのだった。
完
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