6人が本棚に入れています
本棚に追加
「さびしくないの?」
「なに、一人きりじゃないさ。ひっそりとヨセイを送るよ」
ヨセイってなんだろう。今でも畑に囲まれた小さな家でひっそりと暮らしているのに、シセツというところはもっと静かなのだろうか。僕のおばあちゃんも去年そこへ行ってしまった。なかなか会えないところだってことは分かっている。
「たくさんなったよ。文鳥、机、木、ねこ、紙ひこうき……オジサンのおすすめは?」
おすすめか、とオジサンはくすり、笑った。
「どういう大人になりたい?」
その考えはなかった。僕は考えた。冬が終わって、卒業式をしたら僕は中学生になる。
「頭が良くて、お金持ちとか、イケメンとか?」
オジサンは声を出して笑った。
「オジサンだったら、人に恵まれる、かな」
「それっていいこと?」
オジサンは強くうなずいた。だから僕はそれにした。クラップクラップ、拍手が二回、響きわたる。
帰るとき、オジサンは「いつも君を遠くから見守っているよ」といって手を振った。僕は大きく腕を振った。
しばらくするとオジサンの家は取りこわされて、畑もなくなった。何にもなくなった土の上には、太陽光発電のパネルが並んでいる。
最初のコメントを投稿しよう!