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オジサン、元気かな。あのときいくつだったんだろうか。施設の名前くらい聞いておけばよかった。子どもは気が利かないな。
数年ぶりに見たパネルは整然と並び、これでもかと太陽を全身で受けとめている。文鳥だったらとんでもない色が見えそうだ。クラップクラップ、拍手を二回。
「……無理か」
あのあと自分でも何度か拍手をしてみたけれど、変身はできなかった。両親は共働きで一人っ子。つまらない毎日を送っていた小学生の僕にとって夢みたいに楽しかった半年間だった。
最後のオジサンの願掛けのお陰で順風満帆な人生を過ごしている。就職、出会い、結婚、子どもまで生まれて、僕は幸せものだ。
おっと、買い出しの途中だった。急いで実家へ戻ると、両親は初孫にデレデレで僕にかまいもしない。妻も不器用ながら上手くやってくれている。
暇だから、僕は久しぶりに自分の部屋へ入った。出て行った日のままだけれど、埃はない。母にお礼を言わなければ、でも恥ずかしいよな。
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