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机の上にはあの日のボールが置いてある。久しぶりに手に取り、磨いた。
両親には感謝している。だけど思春期のまま大きくなってしまった僕はまともに感謝の言葉を言えたためしがない。ボールを弄びながらベッドに横たわる。
「素直になりたいな」
クラップクラップ、拍手が二回。聞こえた気がした。僕は自分の妄想に呆れる。すると母がお茶を淹れたと呼びに来た。
「あんたたちが持ってきたバームクーヘン食べるよ」
「うん、母さん、いつもありがとう。掃除とか、電話とか。嫁のことも――」
はっと口を塞ぐ。言われた母も僕も驚いた顔で、先に「そりゃどうも」と言って沈黙を切ったのは母だった。
「オジサン、ですか?」
ボールに向かって声をかける。当然返事はない。まあいっか、僕はボールをポケットに突っ込んでリビングへ向かった。
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