タイムリープ、通学路

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「どうしたの今日は本当に。変だよ」 「うん。変、だよね?」 「めっちゃ変」 「うーん、でもさ、わたしずっと願ってたんだから。絢音に会えることを」 「いやいや、昨日会ったじゃん。ラインもしたしさ。そんな付き合いたてのカップルみたいなこと言われても」 「それ! そのツッコミ! いやーん、懐かしい」  また抱きついてこようとしたので、私は必死になって避けた。 「昨日会ったし、ラインもした。それは覚えてるんだけどさ、こんなこと言っても信じてもらえないのかもしれないんだけど、わたしね、ずっとタイムリープしてたの」 「はい? タイムリープ? あの漫画とか小説に出てくるあれ?」 「そう、あれ」  彼女が突飛なことを話すのは知っている。もう小学生からの付き合いだ。魔女になりたいとか、猫と話したいとか、空を飛びたいだとか、そんな馬鹿げたことを言う子ではあったが、今回はタイムリープときたか。 「嘘だと思ってるでしょ? 本当なんだから」 「へー、そうなんだ。それで、もしかしてその世界には私はいなかったとか、そういう話?」  仕方なく乗ってあげる。彼女の設定に。それぐらいの優しさは私にだってある。でも、心の底から話を合わせてあげられないのはやっぱり昨日のことがあるからだろうか。  朝起きてからもモヤモヤとした感情になっていて、正直なところ空に会うのも少し億劫になっていた。 「そうなの。絢音とは会えなくてね、もう何度繰り返したかわかんないの。同じ日が何回も繰り返されてさ、嫌になるぐらいだった。その度に犬塚くんは死んじゃうし」 「犬塚くん?」    唐突に出たその名前に私は少なからず動揺した。なぜなら、空に苛立つ理由の大部分が彼に関することなのだから。  昨日、学校が終わっていつものように彼女と一緒に帰った。私と別れたあと、空は公園で犬塚くんと会ったらしい。そこで彼を呼んで、あろうことか私のことを話したそうだ。 『絢音のことどう思うの?』と聞いたのだという。  それを電話で勝ち誇ったかのように言われて、私は頭に血がのぼった。 『勝手なことしないでよ! まだ気になってるってだけなのに、なんでそんなこと言うの』 『だって、なんかどうしても伝えたくなっちゃって。絢音と犬塚くんが付き合ってくれたらなって思ったの。ごめん』 『ほんと最悪、明日どんな顔で会えばいいのよ、もうなんなの』  そのあと彼女の『ごめん』を待たずに私は電話を切った。  そんなことがあった翌日の彼女の態度がこんな感じだったら、そりゃあ多少腹も立つわけで。時間通りに来なかったら先に行ってやろうかとも思っていたのに、八時前に来たと思ったらタイムリープ? 怒りを通り越して笑えてくる。っていうか。 「死ぬってなに? 犬塚くん、死ぬの?」 「そうなの。えっとね、どこから話せばいいのかな、じゃあ順に説明するね」  不謹慎極まりない。私が思いを寄せる人を勝手に殺すなよ。昨日のことがあったのに、この子はよくそんな発言をするな、と思った。彼女の無神経なところがいいところでもあると感じていたが、さすがにこれは看過できない。
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