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─────それは一週間前の話。
水無瀬鈴葉は二十七歳。公務員で役所勤務。主に住民票や戸籍等を扱う課に所属している。窓口業務でもあり毎日様々なお客様が訪れる。そして一つ一つの書類に少しの時間を要する為どうしてもお客様をお待たせしてしまう事が心苦しい所でもある。なのでたまにたちの悪い人なんかが来ると「お前たちは俺達の税金で食っていけてるんだから良い御身分だよな。」なんて嫌味を言われる日もあり引きつった笑顔で対応するのももはや慣れてしまっていた。でも今は苦痛に耐える毎日だが大学時代はとても楽しい毎日だった。入ったテニスサークルは親友の絢香も居たし幼なじみの昇も一緒だった。定期的に集まりお酒を吞みながらお互いの仕事の愚痴や近況報告なんかを言い合い馬鹿騒ぎする呑み会は鈴葉にとってストレス解消の場でもあった。それとあともう一つ鈴葉を癒やしてくれる大切な存在がある。約五年お付き合いをしている長田弘道四十二歳の存在だった。飲食店を数店舗経営していて何処もそれなりの売り上げがあり業績が良い為プライベートでは住んでいるマンションやら愛車、身に付けている洋服等ハイクラス、ハイブランドな物ばかり。それだけ聞いてしまうとギラギラとしていて少々人間的に取っ付きにくいイメージだが弘道は違っていた。鈴葉に対して温厚で優しく側に居るだけで安心感を与える様なそんな人間だった。二人の出会いはと言うとそんなハイスペックな弘道とは社長が集まる合コンなんかで知り合ったのかなんて周りには言われがちだがそうでは無い。鈴葉の勤める役所に手続きに来た弘道はたまたま対応した鈴葉に分からない事を親切に教えて貰い心打たれた。弘道はその後鈴葉の役所に再度手続きに足を運んでそういう感じになっていった。鈴葉は自分をとても大切にしてくれる年上の弘道の愛に日々幸せを感じまた弘道も鈴葉の素直で思いやりのある人間性が好きだった。
そんな良好な関係がずっと続くと当たり前の様に思っていたある日。
───えっ…弘道さん…??嘘、、
鈴葉の目に飛び込んできた光景は弘道の車の中で弘道と女性が抱き合っている場面だった。二人は体を離し車を降りると弘道は女性の腰に手を回し次の瞬間弘道の方から顔を傾け女性にキスをした。歩きながら何回もそれを繰り返しエントランスの中に二人は吸い込まれて行ったのだった。
呆然とその場に立ち尽くす鈴葉。
一体何が起こったのかとためしに頬をつねってみる。
───痛い…。
今夜は弘道には内緒でいきなり家に行って驚かそうとふと思い立ち来てみたらまさかこんな事になるなんて思いもしていなかった鈴葉。五年の付き合いだが弘道にこんな風にされる覚えは無く何故?どうして?そればかりが頭を埋めていった。
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