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鈴葉は弘道のマンションに泊まる予定を勝手にしていたがあの女性が居る部屋にはもう泊まれず仕方が無く家に帰宅しようとトボトボと歩き出しその日は帰宅する事にした。
翌日も翌々日も鈴葉はあの夜の光景が目に焼き付いて離れず寝不足が続いていた。あれからあの女性は誰なのかと弘道を問いただす事も出来ずにモヤモヤしたままで聞いてしまえばその先に破局の二文字が浮かんでしまうとそれを恐れていた。鈴葉は弘道を愛していたから。今もまだその気持ちは厄介な事に少し残っている。五年と言う歳月はそんな事があったからと言ってスパッと割り切れるものでは決してなかったのだ。
「あの、すみません。」
「はい。」
その日鈴葉が担当した中年の女性に呼ばれた。
「私がお願いしたのはこの書類じゃないんですけど。」
その言葉には既に不満の声が滲み出ている。
「あっ、大変申し訳ございませんでした。」
「しっかりしてよお姉さんっ。」
「只今お出し致しますのでもう少々お掛けになってお待ち下さ、、」
「嫌だ。」
「え…、、」
「だから嫌よ。」
「はぁ…ですが、、」
「あなた私を何時まで待たせるつもりよ。こっちだって暇じゃないのよ。仕事の合間にわざわざ抜け出して来てるってのにそう簡単に言わないでっ。」
バサッと書類を机に叩きつけるとその女性は思いきり顔を背け椅子にドスッと腰を下ろした。まだ窓口に居た鈴葉を鋭く睨み付け腕を組み貧乏揺すりをし始めた。
───あぁ…これは全面的に私が悪いな。とりあえず早く書類を用意しないと。
鈴葉は後ろに回り直ぐに今度は間違いの無い様に書類をプリントアウトし束ねて再び受け付けに戻り女性を呼び出した。
「誠に申し訳ございませんでした。」
深々と頭を下げて女性に謝罪する。
───待ち時間も長いし更に私のミスで怒り心頭だよな…本当ごめんなさい。
「いいわよもう。次から気を付けてちょうだいよね…ったく。」
鈴葉から書類を乱暴に受け取ると最後そう言い残しスタスタと帰ってしまった。
───はぁぁ~…。クレームには少し慣れてきたと思っていたけど弘道さんの事で凹んでる今は流石に堪えるな…。
同僚に見られない様にしょぼんとした顔を髪の毛で隠し再び仕事に戻って行った。
───今夜は一人でお酒でも吞もう。モヤモヤしたままで居れば居る程ミスが重なってしまう気がするもん…。
鈴葉はそう心に決めその日の仕事を何とか熟し職場を出ると夜の吞み屋街に足を運んで行った。
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