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隼人と桜の三人の呑み会から数日後絢香はスマホを握り締め鈴葉に不満を滲ませた声で電話を掛けていた。
隼人から後輩も交えての呑み会の誘いがあり浮かれ気分で行ったは良いがその後輩が女性の桜と言う子でこの間隼人に求婚まがいな事を言ってきた子だったと言う話を先ず伝え、それから桜が絢香にマウントを取り始め隼人を前に無言の火花を散らしてきたと報告をした。
「…とにかく今言った通りなのよ。」
「そうだったんだ…。」
「隼人は桜ちゃんが私にマウントとってきてるなんて少しも知らないから三人仲良く楽しい吞み会で終わったんだと思うけどさ。」
「そう…。」
「でもさ、これで桜ちゃんの気持ちが良く分かったわ。」
「…。」
「私桜ちゃんは一度隼人に断られているからって思ってたんだけどまだ気があって諦め切れてないのよ。」
「…。」
「隼人前の皆との吞み会の時桜ちゃんに傷付かない様にやんわりと断ったみたいな事言ってたからもしかしたら返ってそれが桜ちゃんの気持ちに踏ん切りをつけさせなかった可能性が無きにしもあらずだなと…鈴葉聞いてる?」
「え、あ、う、うん。聞いてるよ。」
「良かった。相づち無いからどうしちゃったのかなと思ったよ。ま、私の考えはそんな感じ。鈴葉は?何だか元気無くない?」
話を始めて何時もと様子のおかしい鈴葉に気が付いた絢香が言った。
「あ…うん…実は…。」
様子の異変を悟られてしまった鈴葉はこの間偶然に弘道と再会してしまった事を打ち明けた。誰かに話さなければモヤモヤした気持ちをずっと引きずりそうだったから。そして弘道に呼び止められ二人で話をし弘道は結婚に背を向けたがまだ鈴葉を強く想っていると告げられたと。
「もう弘道さんとは終わったけど私を見るあの真剣な目が嘘を言っているとは思えなかった。弘道さんがしてしまった事実は忘れていないけどね。」
「こっちはこっちでまだ未練が残っていると言う訳だ。で、鈴葉はどうしたいと思ってるの?弘道さんとやり直そうとか考えてたりする?」
「結婚に関しては一度だって口にした覚えは無いけど弘道さんにそんなプレッシャーを知らず知らずに掛けてしまっていたのかなって少し反省はしたの。」
「えっとつまりそれって…。」
「自分でも正直良く分からないんだ。笑っちゃうよね。自分の事なのにさ。」
「そうなんだね…うん。でも鈴葉がどうしたいかが一番大事だから自分の気持ちを大切にして弘道さんへの答え出してね。」
「うん。ありがとう聞いてくれて…って、絢香の話にあんまりアドバイス出来なくてごめん。私にわざわざ電話してくれたって言うのに。」
「ううん。なんか一通り喋り尽くしてすっきりしたから全然大丈夫よ。じゃあ長くなっちゃったしこの辺で切るね。」
「分かった。またね絢香…。」
絢香との電話を切った鈴葉は半分うわの空で聞いていた絢香の話を思い出していた。
───なんか弘道さんの事で頭いっぱいだったから絢香が折角電話くれたのに悪いことしちゃったな。けど絢香の話に久保山君が出てきて久保山君の事も確かにこの胸の中に居てその存在は大きくなっているのは事実だ。さっき弘道さんとやり直す?とか聞かれたけど絢香に言った通り私は私が分からないんだ。久保山君しか見えなくなりそうでだけど彼を求めてはいけない。親友である絢香にも当然相談出来ず彷徨っていた所に弘道さんがフッと私に入り込みこのタイミングで心を乱していく…。
鈴葉はベッドにゴロンと体を預け真っ白な天井をただ見つめていた。
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