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ただ会いたくて
「久保山さんお疲れ様です。」
仕事が片付きパソコンの電源を落としていた隼人に向かって桜が声を掛けた。
「濱島さんお疲れ様。」
「今日はこの後呑み会ですか?」
椅子に座ったまま上目遣いでそう隼人に聞いてくる。
「いや。無いよ特に。」
さらりと答える隼人は笑うでも無く真顔で。すると空かさず桜は言う。
「良かったらご飯行きませんか?私この前友達にお勧めのイタリアン教えてもらったんです。」
だが隼人は。
「今日は帰るね。」
「え…予定無いみたいな事言ってませんでしたっけ?」
「予定無いよ。けど今日は家に帰りたい気分でさ。」
「…そう…ですか。」
「悪いね。また皆で行こうよ。」
隼人に誘いを断られた桜は肩を落とし仕方が無くコクリと頷いた。
職場を後にした隼人は車内で吊革につかまりながらスマホを眺めている。その画面には鈴葉の連絡先が表示されておりそこからメッセージ画面へと移動し文字を打つ指がウロウロとしていた。二週間前に会ったきりあえてこちらからは連絡を取ってはいなかったので鈴葉がどうしているのかずっと気になっていた。
───鈴葉の顔見たいな。連絡してみるか。
隼人は当たり障りの無い文章を打ち込み送信ボタンを押そうとしたその時。
ブブブ。
───っ…、、
自分の気持ちが通じたかの様にタイミング良く鈴葉からメッセージが入ってきた。
『今から会えないかな?遅くなっても久保山君の家の前で待ってます。────』
鈴葉の方から自分に会いたいと要求されたのは珍しい事で隼人は舞い上がり直ぐに返事を返した。今帰りの電車なのでもう少しでそっちに向かうと言う内容を伝えはやる気持ちを抑えつつ頭は鈴葉の事でいっぱいになっていた。
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