No.2 最高のリレーを捧ぐ[猪俣隼人 6月3日]

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「なんでですか、今までずっと、この順番で練習してきましたよね?」 それにまず声を上げたのは、なんとクラス内で存在感0%とも揶揄される、高松さん!この時ばかりは全員の注目を浴びてます!なんか……カッコいい。高松さんはやっぱり、私の永遠の憧れなのかもしれない、とすら思った。 「猪俣くん。無理そうなら若宮くんに代わってもらうのも全然アリだと思うよ?」 そう言ったのは、最後まで若宮くん派だった藤乃さんだ。 「そうそう、若宮って元からクラス一速いし」 「アンカーになったら絶対勝てるっしょ」 他の人も藤乃さんに続いて声をあげる。 「けどさー、今まで練習してきた走順、後半からちょっとだけズレるんだろ?」 また別の男子が声を上げた。この人は、猪俣くん派のもう一人の学級会係、木戸くん。 「若宮が速いからとかそういうのは一旦置いといてさ、若宮の前とか後ろの人が、バトンパス練習してきた状況が急に、変わるじゃん?それってどうかって思わないか?」 「一理あるな」 普通の小6が絶対に使わないような言葉とともに、ご丁寧に挙手までして声を上げたのは。 「諫山くん……」 高松さんがハッとして顔を上げるのが見えた。 「それもそうだが、そもそも猪俣くんが自信を失う原因はどこにあるんだ?近日三回の練習の結果から考えても、なぜそこに至ったのか、僕からしてみれば容易に想像できないのだが」 再び、水を打ったような静けさ。普通なら、周囲をこんな空気にしてしまった自分の発言に、間違いなく後悔すると思う。けど、やっぱりこの人は違うんだ。顔色ひとつ変えずに、猪俣くんにまっすぐ視線を送っていた。 そんな中。再びマイクの電源が入る雑音が運動場に響いた。 「雨が弱まってきたので、リレーは予定通り行います。6年生は、準備ができ次第、待機場所に整列してください」 山田先生の声だ。 「……やるよ」 誰かがガッツポーズを決めるより早く。ぽつりとそう言った猪俣くんは、鉢巻を頭に巻く。 「行くぞ、5組」 ───ついに、リレーが始まるんだ。 クラスのカラー、オレンジ色のゼッケンを着た私たちは、素早く整列して、笛の合図と共に駆け足で運動場の真ん中へ入場していく。まず、リレーメンバーは後ろに下がって、大縄メンバーを全力で応援。結果は3位。まずまずといったところだ。 そして、3番レーンに、第一走者が立った。この緊張感、多分一生忘れない。第一走者なんて、めちゃくちゃ緊張するだろうなぁ。私には絶対できない……とか思ってるうちに。パン、と歯切れの良い銃声が響く。今度こそほんとに、始まったんだ。
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