No.2 最高のリレーを捧ぐ[猪俣隼人 6月3日]

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目まぐるしかった。第一走者から、互角だった。5組は今のところ、4位。目で追っているうちに、もうすでに第二走者にバトンが渡ってる。ここまで大きなミスもないし、いい感じだけど……順位はなかなか上がらない。あとちょっとで抜けそうなのに。 「内海さん、頑張ってくださいね」 後ろの方で、高松さんがそう言うのが聞こえた。ああ、もう次の次が私か。高松さんに振り返ってガッツポーズで返事しながら、この緊張感を、……楽しも。よーし、内海玲子、クラスのために一肌脱いで頑張りますか! 「はい!」 後ろの人からの声で、走りだす。 「はい!」 二回目の合図で、手を出す。バトンを握りしめる。あとはとにかく走るだけ。 前の人の背中が遠い。でも、私にしては全力で頑張った……と思う。 そうして。 走り終えた後の達成感、尋常じゃないね。そう思って列に加わると、ちょうど誰かが一人抜いたらしく。一気に周りの歓声が大きくなる。 「よし!これはいける!」「え、諫山……速っ」 ええええ、諫山くん? 私が目をやった時には、もうすでに走り終えた後の諫山くんがこっちに向かって走ってくるところだった。 そういえば。この人、圧倒的文化部系かと思いきや、ちゃんと剣道やってたもんね。ん、でも剣道って足の速さ関係なくない? 「内海さん、何ボーッとしてるんですか!次、若宮くんですよ!」 わ、そうだった! 「若宮いけえええええええ‼︎」 そんな絶叫があちこちで聞こえる。なんかもう、バトン渡ってからは何も聞こえないんですけど。ていうかやっぱ、改めて見ても若宮くんの速さは異次元だった。すぐに前の人を抜き、あとはそれまで1位だった2組の人を、バトンが渡る直前に抜いた。あれでもちょっと苦戦してた方なのかも。でもそのおかげで、次の人がさらに差をつけた。 「なあもう、あとは猪俣に走り抜けてもらうだけだな」 そうだ、私たちは。 猪俣くんが走るまでに、そこそこいい流れを作れてた、感じ? そんな達成感に浸ってる間にも。リレーは流れていく。バトンは渡っていく。いつの間にか、猪俣くんがコースに入っていた。 「猪俣───‼︎」 渋谷一人じゃなくて。今、クラス全員が猪俣くんを。応援しているんだ。 それが本当に、誕生日に相応しい、最高のリレー。 になる、はずだった。 「……あっ」
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