1人が本棚に入れています
本棚に追加
「マジかよ!」
「……嘘……」
5組の歓声はそこで途切れてしまった。
最後のカーブだった。何が原因か、突然猪俣くんの足がもつれたように見えたかと思うと、体が大きく傾いて、それから地面に倒れ込んでいた。
誰もがその状況を受け入れられていなかった。そんな一瞬にも立ち上がった猪俣くんだったけど、その後ろから2組、3組、と続き、結局猪俣くんは、ゴールテープを切ることはできなかった。
「……なんで……」
言葉を失う、高松さん。みんなそうだった。だけど、高松さんはすぐに走って、ゴールの向こうでうずくまる猪俣くんの方へ向かっていた。ほとんど反射的に、私は追いかけた。猪俣くんは何人かの先生に声をかけられていたけど、すぐに「大丈夫です」って言うみたいに手を振って、こっちに向かって歩いてこようとしていた。
だけど、右足引きずってる……よね?ほんとに大丈夫……?
「猪俣く……」
「猪俣!」
高松さんが声をかけるより早く。猪俣くんの元にたどり着いた影があった。
「若宮くん」
思わず突然立ち止まった高松さん。私も一緒に立ち止まって、ことの成り行きを見守るしかできなかった。
「……だから言ったじゃん」
若宮くんの第一声はこれだった。
「……は」
高松さんが怒りとも呆れとも取れるような声を発した、その時。
「……無理すんなって……」
私の視界から若宮くんが消えた。その場に崩れ落ちた若宮くんに視線を落とす。言葉の最後はくしゃくしゃに丸めた紙みたいに、消え入りそうで、切実で泣きそうな声だった。
私たちは、完全に言葉を失った。
え……これは一体、どういうこと?
最初のコメントを投稿しよう!