第一話

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未羽は会社のマイデスクでパソコンに打ち込み作業中に、先日の告白を思い返していた。 (ぶっちゃけすごい揺れた。 あんな運命みたいな「出会い頭告白」ある? しかもド性癖特盛!!) 今でも告白を思い返せば、ジンとお腹の奥が疼く。 しかし、未羽はぶんぶんと首を左右に振った。 (でも私、彼氏持ちだし!) 未羽は猛烈にパソコンを打ち込み、 同棲中の彼氏である信太へ懺悔を心の中で述べた。 (バチバチにときめいた、信太ごめん! こ、これは二次元へのときめきと同じようなものなんだよ! だってだってド性癖が服着てるんだもん!!) 「未羽、がんばってるねー」 「出たな、このド性癖!!」 「未羽ってズバッて言っちゃうよね!」 未羽の思考に入って来るのは、ド性癖社長こと、天海(あまみ)理人(りひと)だ。 彼は若干32歳にて、この乙女ゲーアプリ制作会社社長として大成功している。 あの告白以来、理人から返事を急かされるようなことは一切ない。 だが、未羽は毎日、彼からの好意をバシバシに受けていた。 社長室があるというのに、 理人はいつも未羽の隣のデスクに当然と座っている。 おい、社長なら社長室にいろ。と誰もツッコまない。 え、なんで?と未羽は社員たちに問いかけたが、皆ニタリと笑うだけであった。 疑問が解消されない。 「これコピーよろしくだって」 (あぁあーもういちいちイケボ美顔足長い、やめれ!!) 理人は堂々と未羽の隣にてイケボを囁き続ける。 未羽は性癖が刺さりまくる毎日に、心臓がギュンギュンで過ごしていた。 未羽がイケボにカッカした顔を上げると、理人が書類を手渡した。 「え、これって新作乙女ゲーアプリの企画書ですか?!」 「うん、次作、気合入ってるんだよね。未羽もやーーっと入社したからね」 理人が意味深に笑うので、未羽は首を傾げた。 新入社員を待ち侘びるほどに人手不足だった? この会社は新卒学生の中で超人気。 就職競争率が激高だった。 人手不足とは思えないが、理人は未羽を待ち侘びていたという。 「新入社員を待っててくれたなんて、いい会社ですね。 ほろっときちゃいます」 未羽がこの会社を志望したのは、大好きな乙女ゲーアプリシリーズを作っている会社だからだ。 乙女ゲーアプリ好きが高じて、高倍率を潜り抜け、ここに入社することができた。本当にラッキーだった。 「私、弊社の乙女ゲーアプリ全シリーズ大好きです!!」 ポッと染まった社長の鼻息が荒くなり、ハァハァが繰り返される。 「だ、だだ大好き?!」 「社長に言ってません」 「未羽のためにつくったから嬉しぐッッは!!」 鼻血が見事な放物線を描いた。 「私のためって、全国の乙女ゲーマーのためですよね? 社長ってハァハァから鼻血噴くの残念過ぎてマイナス500点です」 「コメントキレてるとこ好…き…」 黒子の社員たちがそそくさと現れて、血濡れ社長を回収していく。 未羽はこの会社の謎の連帯感に真顔になる。 「黙ってたら完璧なのに……!」 真顔になる未羽の肩にポンと手が置かれた。 未羽の直属上司である百華が、切れ長目の美しい顔で笑う。 「セクハラコンプライアンスはいつでも私に言え。あいつを警察に叩き込む準備はできている」 「了解です、百華さん!」 二人はぐっと親指を上げてポーズを決め合った。 しばらくして、理人が未羽のデスクの隣の席に何食わぬ顔で帰って来る。 「ただいま」 社長の声に顔を上げると、理人の鼻にはしっかりティッシュが詰め込まれていた。 「鼻にティッシュ社長、残念過ぎる……いくら美形でもそれは……ん?」 未羽はじっとりと鼻ティ顔の理人を見ると、にこりと笑顔をプレゼントされた。 「あれ?鼻ティでも美形だな?なんで??」 「未羽って心の声だだ洩れなとこ最高にかわいいよね!」 「あ」 未羽は今さら口を塞いだ。 ド性癖のビジュアルはどうあってもド性癖だと知って、未羽の新たな性癖扉が開かれた。
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