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未羽は動揺を隠してパソコン作業に戻る。
すると未羽がパソコンを叩いている横で、
理人は「ラテアート」の動画を見始めた。
これが社長の日常だ。
最初は何やってんだろうこの人と思っていた。
だが、周りの社員が何も指摘しないので未羽も慣れた。
(社長とは、仕事をしないで
ラテアート制作動画を見ている人物のことなんだ了解。
新社会人、知らないこといっぱいあるな!!)
未羽はこの会社で柔軟性を学んでいた。
そんなラテアート社長が、ふと未羽に声をかける瞬間がある。
「あー未羽かわいー」
「え?」
「ここの入力、欄ズレてる」
未羽のパソコンを指さして、理人は嬉しそうに綺麗に笑う。
「あ」
「そのズレさえも可愛いから、むしろこのままでもいいよ?僕は」
「ダメですよ!懐が広いの方向性おかしいでしょ!」
ラテアート動画ばかり見ているはずの理人だが、未羽のミスを見つけてはすぐにカバーしてくれる。
見ていないようで見ているらしい。
未羽が上司の百華にきちんと指導された後なんかは、あからさまにヨシヨシ甘やかしてくれる。
鼻血オプション付きヨシヨシなので、どうにもしまらないが。
理人は社長ながら、仕事を全くしない。
だが、未羽の世話だけはしてくれるのだ。
ラテアート制作動画が流れるスマホを手に持った理人は、未羽をうっとりと眺めたままだ。
未羽は居心地の悪い熱視線を受けて、頭をぺこりと下げた。
「社長、ミスを教えてくれてありがとうございます」
「ミス?未羽は全部かわいくて、未羽がすることに間違いなんて一つもないから、ミスなんて存在しなかったけど?」
「いや、明らかにミスってますけど」
「未羽のかわいいところだから、むしろご褒美?」
斜め45度下から見上げてくるあざとい理人の表情に、未羽の胸が簡単にギュンと鳴る。
「……社長っておかしいですよ」
「おかしくないよ?未羽がかわいいのは世の事実で、真実で、真理だから」
うっとりゲロ甘な台詞を吐き出す理人に未羽は叫んだ。
「甘ぁああい!しかも乙女ゲースチルのような光景ぃ!
高身長ゆえの長い足を組む仕草たまらんし、
スーツに社長で、
なんせ顔が良いこの人なんなのぉお!」
「ありがとう、未羽って勢い良いよね!」
「ハッ!また……!」
今さら未羽は口を塞いでも遅いが、塞ぐ。
このダダ漏れる口をどうにかしなくては。
己の美を理解して、武器を前面に押し出してくる理人に、ついド性癖をくすぐられる未羽の胸が騒ぐ。
むぐむぐ唇を噛んでときめきを耐える未羽に理人は問いかけた。
「休憩しない?ラテアート飲む?」
「飲みたいです。って、社長!詰めた鼻ティが真っ赤に染まってますよ!」
「未羽がむぐむぐ何か我慢してんのかわいくて、そりゃあ鼻ティも染まるよね世の真理☆」
鼻血垂れ社長がグッと親指を立ててポーズして、ウインクまでしてくれる。
まず鼻ティ先から滴る血を拭け。
鼻ティを一新した社長は、社内備え付けの高級コーヒーメーカーでラテアートを開始した。
山のように出来上がる「失敗作」を社員に順番に配っていく。
社員はみんな、失敗したヤツね……と苦笑いして受け取った。
「一番上手に描けたやつ、未羽にあげるー!」
「え……これ猫を血祭りにして生贄にした絵ですか?」
理人が未羽につくってくれたラテアートははっきり言って下手、いや地獄絵図だった。
殺害現場を表現しましたと言われればまだ納得できるほどの禍々しさである。
なぜ彼はラテアートを志したのか理解しがたい。どう見ても才能がなさそうだ。
「辛辣な君もかわいいたまらんブッハ!」
「しゃ、社長!ラテが血の海でさらに地獄絵図です!ヒー!」
鼻ティをも吹き飛ばす勢いの流血をする理人に未羽が騒ぐ。
一連の光景に社員たちに笑いが巻き起こり、即黒子回収が派遣された。
社長を中心に雰囲気の良い会社は、未羽にとって実に居心地が良かった。
優しい社員たちと、鼻血は出るがド性癖な社長に甘やかされて、未羽はどんどん仕事にのめり込むようになっていった。
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