第一話

5/6
前へ
/78ページ
次へ
「遅くなったね。未羽、疲れてない?」 「いえ、私も早く先輩たちみたいにしっかり仕事できるようになって、乙女ゲーアプリ作りたいです!」 「あれ?社長の僕みたいにじゃなくて?」 「黙秘します!」 未羽はすっかり理人に軽口を叩くようになっていった。 毎日の業務の中で理人は軽口で怒らない人だと、よく理解していた。 「僕が送るよ」 「いえ、一人で帰れますよ」 遅くなった会社からの帰り道、社長自らの申し出に未羽は丁重にお断りした。 「ダーメ、社長命令」 未羽はそれを言われると従うしかなかった。 理人とタクシーにのりこみ、未羽は考え事に浸る。 未羽が信太を拒否したあの日からずっと、険悪な日が続いていた。 (倦怠期ってやつだよね、ただの。 運命の恋に試練はつきもの。 大丈夫、大丈夫) 「未羽?着いたよ」 「あ、ありがとうございます!」 タクシーはいつの間にか、未羽と彼氏の同棲している家の前に到着していた。 「下りないの?僕とこれから遊びに行きたいってこと?」 「い、いやいや下ります!」 クスクス笑う理人に見送られて、未羽は信太の待つ家へと帰宅した。 (あ、あれ? 私、タクシーで住所言ったかな? ぼーっとし過ぎだな) 未羽を送り終え、不遜な顔をした理人はオフィスに戻った。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

289人が本棚に入れています
本棚に追加