最終話

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スケスケ過ぎて見るだけで誰もいないと思いがち。 理人が社長室に入ると、外から見えない場所に、未羽がうずくまっていた。 未羽はにっこり笑って立ち上がった。 「社長!絶対見つけてくれるって! わかってました!」 未羽は走って理人に抱きついた。 理人は深く深く息をついて、 未羽をきつく抱きしめる。 心底、ホッとした。 「焦ったーーー今までの人生で一番焦ったこの10分」 「今までの内緒ごとの仕返しを込めて、策を練りました」 「意外と、意地悪いね」 「社長には負けます」 未羽は理人の胸のいい香りを鼻いっぱいに吸い込んで理人を抱きしめた。 汗ばんだ理人の胸は濃い香りがした。ぎゅっと抱きしめてから、未羽は理人を見上げる。 「社長、情報収集行為はぶっちゃけキモいし重過ぎです!」 「……ごめん」 理人はしゅんと下がり眉を見せる。 「でも、今のドッキリで、全部許します」 「ほんと?!」 理人は許しの言葉にパッと花を咲かせた。 未羽の言葉に一喜一憂するその姿はまさしくかわいい。 未羽は理人のド性癖3本立てのところより、さらにかわいいところがツボだ。 未羽は理人の大きな手を両手で包んだ。 「私、あのカフェでよく友だちと話してました。 『運命の恋がしたい』って ……たぶん何度も何度も」 未羽が夢を語るのを、理人は近くの席で聞いていたのだ。 「だから社長は私に運命の恋の 『夢』を見せようとしてくれたんですよね?」 未羽は理人の行動の根っこをみつけていた。 出会うだけならいくらでも方法がある。 なのに、理人が選んだ方法は途方もない遠回りだ。 運命みたいなド性癖出会い、 運命みたいな出会い頭告白、 運命みたいなタイミング。 どれも理人の演出だった。 理人は果てしない遠回りの果てに 未羽の「夢」を叶えようとしてきた。 『ただの縁を【運命の恋】に変えていく努力は、できると思ってる派』 理人の言葉が、未羽に答えを教えてくれた。 「社長は私に『夢』を見せるためだけに ずっと努力してきてくれた。 そんな無謀でおかしくて変な努力できる人、他にどこにもいませんよ。 それこそ、運命って言うのかも?!」 未羽がクスクス笑って、理人の努力を見つけてくれた。 理人は積年の重いに胸が疼く。 「未羽に、僕が運命だって思って欲しかった」 「ばっちり『夢』見させてもらって、社長が運命だって思っちゃいました」 理人が未羽の頬に手を伸ばせば、 未羽が理人の手に迷いなく頬ずりする。 「運命の恋なるように、私もいっぱいいっぱい努力します! だから!」 理人の大好きなとびっきりの、笑顔だ。 「私と運命の恋をしましょう! 大好きです!社長!」 未羽の、やるときゃやっちゃう大告白に、理人は天を仰いだ。 「サイッコウなんだけどぉおおお!!!」 「ひゃっ!」 理人の長い腕が、未羽を絡めとる。 未羽はぎゅうぎゅう抱き潰された。 「僕も、僕も僕も!! ずっと努力し続けるって誓う。 未羽に運命の恋だと思ってもらえるように 死ぬまで努力する!」 未羽はすがりつき背中を曲げて理人が抱きしめてくる。 理人の背に手を回して、未羽は優しく撫ぜた。 「社長は努力し過ぎなので もうのんびりしててください」 「ムーーーリーーー! 未羽のために何でもつくりたい!!」 「社長につくれないものはなさそうです。 会社に、シェアハウスに、ラテアート」 抱き潰す勢いで理人のキスが迫って来る。 未羽は理人の唇を人差し指でツンとついて、待てをした。 「運命の恋ですら、 社長の手作りですからね!」 未羽の女の顔が、理人の胸をキュンキュン突いた。 勃☆起フェアリーがエンジンMAXである。 理人が未羽にキスしてから抱っこして持ち上げる。 「ひゃ?!」 普段は誰も使わない社長室デスクに、未羽を優しく押し倒した。 「もう待てない。今から抱く」 ひっくり返された未羽の視界を、理人がネクタイを緩める姿と天井が占めている。 「ちょちょちょちょ!?真昼間! スケスケの社長室!ダメですよ!」 「誰も見てないよ?」 「えぇ?!」 未羽が身体を起こしてスケスケの向こう側を見る。 確かに誰もいなかった。 え、なんで。 「みんな僕の念書契約の奴隷だからね。 恋仲を邪魔する奴はクビ! 初えっち邪魔する奴なんて当然クビだよ。 みんなわきまえてるー!」 「しゃ、社長が一番わきまえてませんよ?!」 にっこり笑顔の理人に組み敷かれた未羽に、逃げ場はなかった。 「ちょ、え、ウソ、初めてここで?!うそでしょ!!」 「未羽、大好き、僕のになって」 「っあッやん!待って?!スーツな社長と、社長室で初えっちとか、どう考えても」 未羽が理人の頬を両手で挟み込んで笑ってしまう。 「夢みたいなシチュエーションなんですけど!」 未羽のキレッキレコメントに理人はブハッと噴き出した。 理人の突拍子もない行動を、未羽は許して、しまうのだ。        
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