第143話 廃神社

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第143話 廃神社

「うわ……」  そして、俺たちの前に現れたのは想像した通り……かなり寂れた古い神社だった。でも、外には多少の灯りが燈っているから忘れ去られているわけではないらしい。本殿の周りは雑草が生い茂っているし、階段も狛犬も苔だらけだけど……。 「………」  俺は幽霊とか信じてないし、オカルトの類は怖くない方だ。今まであんまりそういうイベントに関わってこなかったから、ってのもあるが。それでもそこに近付くのは少し勇気がいった。あまりにも不気味な雰囲気すぎて……。 「写楽……」 「ちょ、ちょっと待ってろ!」  迷っている場合じゃねぇか。 (ちょっと邪魔するぜ、神様!)  俺は祈るような気持ちで数段の階段を駆け上り、真っ暗な本殿の中へと飛び込んだ。幸い、鍵は掛かっていなかった。掛かってたとしても、思い切り蹴りを入れれば簡単に開きそうだけど……でもかなりバチ当たりっぽいからやらなくて良かったと思う。  それにここなら一応雪も風も凌げるから、さっきよりは十分マシな環境に思えた。畳のあちこちが腐ってるような気がするけど、その辺はマジマジと見ないことにした。つーか、暗くて見えない。 (やっぱりここ、廃神社かもしんねぇな……)  かもしんねぇじゃなくて、廃神社だ。最近人が来たような形跡が全く感じられない。中の明りはさすがに見つけられなかったけど、外からのわずかの灯りで幸い辺りは真っ暗でもなく、目も少しずつ慣れてきた。 「遊、すぐ暖めてやっからな」 「はぁ……写楽、ごめんなさい……」  そして俺は遊を畳の上に下ろすと、雪が染みて濡れたコートや服を脱がせた。確か冷えた身体を暖めるには人肌が一番いいって何かで読んだ。雪山で遭難した時とかな……ここは雪山ってほどじゃねぇけど。  俺も上半身だけ服を脱いで、同じように上だけ全部脱がせた遊を抱きしめる。すると遊も、手を伸ばして俺で暖を取るように抱きついてきた。その手の力に、俺は少しホッとした。 「写楽……あったかい……」 「ん、良かった」  それは俺も同じだった。火を焚いてるわけでもないから、遊に触れてないところからは体温を奪われていく気がしたけど……遊の身体の震えは、次第に治まってきた。 「ハア……ハア……水……飲みたい……」 「え?」  遊の身体の震えが落ち着いてほっとしたけど、暫くしたら今度はそんな希望を口にした。なんか、今度はさっきよりも息が荒くて体温も高くなってきたような気がする。 「なんかすごく喉が渇いて……頭がぼうっとする。水、まだあるかな……」 「み、水な! ちょっと待ってろ」  俺は持ってた荷物の中から飲み物を探した。すると500mlのペットボトルに半分以下の水が入ってたから、俺はそれを遊に全部飲ませた。 「ン……」  零したら勿体無いから、零さねぇようにそうっと。遊の細い首の真ん中、小さな喉仏が上下に動いているのを見て、嚥下しているのを確認する。ついでに、バッグに入ってたチョコレートなんかも食わせた。  今夜は晩飯を食ってないけど、不思議と俺に空腹感は無かった。長時間歩いて疲れてるはずなのに……こういう状況だからだろうか。  腕時計を見たら、丁度0時を過ぎたところだった。 (早く朝になれ……)  朝になったところで状況は何も変わらないかもしれないけど、それでも夜よりはマシだから、俺は時間が早く過ぎるように祈った。
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