第4話 ペットのお迎え

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第4話 ペットのお迎え

昼休み、俺はまだ一度も俺に会いに来ない梅月にイライラしていた。 くっついてこようとする舎弟どもを便所だと振り切って、隣のクラスへと向かう。隣の3組は、俺のクラスより地味……というか、普通のクラスだ。 そしてその地味な教室の廊下側の列、前から四番目の席に俺のペットはいた。ちょうど弁当のハンカチを広げる寸前だった。 俺はそのまま前のドアから入って、つかつかと奴の机へ接近した。俺の存在に気付いた3組の奴等がザワザワし始めたけど、無視だ。 「……おい」 昨日と同じ、綺麗なつむじに向かって声をかけた。 「えっ? あ、犬神くん!?」 梅月が顔を上げて、俺とばちっと目が合った。俺の姿を認めた梅月は、カーッとゆでダコのように赤くなった。 なんだその反応、かわいいじゃねーか……じゃなくって。 「お前昨日、俺のペットになるっつったよなァ?」 「は、はい」 「ならなんで会いにこねーんだよ。普通朝イチでご主人様のところにきてゴキゲン伺いしろっつーか、一生懸命尻尾振るのがペットの役目だろーが」 俺、朝から学校来てねぇけどな。 「えっ? そうなの?」 えっ、違うのか? 質問を返されて逆に焦ってしまった。 ペットってそんなもんだと勝手に思ってたけど……犬とか犬とか犬とか。 「ごめんなさい、僕今までペットって金魚くらいしか飼ったことがないから知らなくって」 わざわざ自分から呼びに来といてなんだが、別に寂しかったとかコイツに会いたかったとか、そんな感情は1ミクロンもないからな。 「あれって4組の犬神写楽だよな。なんでうちのクラスに来てんだ……?」 「ウメボシが犬神になんかしたらしいぜ。ペットがどうとか因縁つけられてるし……」 「まじか、よりよってあの犬神写楽のペットになんかやらかしたのか…… やっぱ変人だな、ウメボシって」 こいつは昨日いじめられてねぇっつったけど、ぼっちで弁当食おうとしてるし、ウメボシとか変なあだ名つけられてるし、立派にいじめられてるじゃねぇか。  俺はこっちを見てヒソヒソと話している奴等をギロッと睨んだ。 「別にいじめとかじゃないよ」 俺の視線と思惑に気付いたのか、梅月がそう言った。  俺は視線を梅月に戻す。 「あ?」 「直接何かされたわけじゃないし、あだ名も気にしてないから。僕が気にしてなかったらイジメとはいえないでしょ? 僕がひとりなのは友達がいないからだよ」 そう言って、少し淋しそうに笑った。 なんでダチが一人もいないんだと聞きたかったけどヤメた。(大体、俺はツッコめる立場じゃない)ダチがいねぇならいねぇで丁度いいし。 「そういやお前、昨日そのダサい髪形どーにかしろつっただろ、なんで変えてねぇんだよ」 そう言って軽く梅月の前髪を弄ぶと、梅月の顔がますますカアッと赤くなった。 「……ッ」 俺に触られただけでいちいち赤くなるなよ!  つられて赤面しそうになるのを必死で抑えた。コイツ、どんだけ俺が好きなんだよ……。 少し周りがザワついたのは、どう見ても俺がこいつをイジメてるようにしか見えないからだろう。つーか髪サラッサラだな、コイツ。 「ごめんなさい。美容室に行くお金も時間もなくて……。自分で染めようかなとも思ったけど、市販の染めるやつってけっこうするんだね」 「何お前、家が貧乏なの?」 梅月は黙ってコクリと頷いた。 やばい、ガチなやつだったか? 大抵、相手が貧乏なんじゃなくて俺んちが金持ちすぎるだけなんだけどな。とりあえずフォローだ。 「……母子家庭とかかよ?」 梅月は俺がそう聞いたことに驚いた顔をした。自分のことに興味があったのか、とでも言うような表情だ。 俺が黙っているとハッとして、少し俯くと小さく首を振って言った。 「違うよ」 なんだ、両親とも健在なのか。びっくりさせんじゃねぇよ。 「とにかくお前、休み時間とか暇だったら俺に会いに来いよ。俺のペットなんだからよ」 「……僕が会いに行ってもいいの?」 「おう。とりあえず舎弟の奴等に紹介すっから、今から弁当持って俺のクラス行くぞ。あ、あとお前が俺にコクったって誰にも言うなよ。あくまでも俺に憧れた上で自らのペット志願だ。いいな」 「はいっ」 ゲイ扱いされるのなんか面倒だからな。いいことと言えばリナを引き離せるくらいか?
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