ある貴族side紫の聖騎士 【完】

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ある貴族side紫の聖騎士 【完】

一年に一番華やかな教会の大祭礼とは言え、こんなにもいつも以上に貴族や庶民が大聖堂や、その通り沿いに押しかけるのは皆、紫の聖騎士や、以前とは違う祭礼が観たいからではないだろうか。そう言う私も前回の祭礼の噂を聞いて、是非ともひと目その姿を見たいと押しかけた一人ではある。 大聖堂へ着くまでに見かけたのは、教会から続く道沿いに沢山設けられた花籠の寄付箱へ、次々と投げ入れられるお金だった。この花と引き換えの寄附箱は新しい試みで、紫の聖騎士が提案したのだと噂されている。 皆一様に胸元に美しい花を飾り立てて、沿道に並びながら、今日の大祭礼を楽しみにしているようだった。私が大聖堂の階段を急ぎ登って行くと、柔らかな鐘の音が音楽を奏でるのが聞こえた。思わず立ち止まって、振り返ってその音の発生する方を近くの貴族たちと一緒に見つめた。 高台にある大聖堂からは、教会を出立した豪華な隊列が日差しに煌めいて、こちらへ進んでくるのが見えた。そして聞いたことのない金属の響く美しい音楽の音に合わせて、沿道に詰めかけた王都の民が声を揃えて讃美歌を歌うのが、波の様に伝わってきた。 それはある種胸を熱く震わすような光景で、成る程噂通り、観なくてはならないものだったようだ。私は促されるまま、大聖堂へと入場すると、もうほとんど残ってない僅かな席に立つと、期待に騒めく興奮気味の貴族の一員となった。 大聖堂の鐘が大きく響き渡ると、王族を始め、皆の表情が一変した。皆、押し黙って大聖堂の入り口を見つめた。そして次の瞬間、美しい金属を震わす音楽と共に沿道では馬に乗っていた紫の聖騎士が、大司祭の前を誘導するように今度は歩いて祭壇まで歩き進んだ。 薄水色の白と銀色を効かせた清廉な聖騎士達と、赤と金色で飾られた白い司祭の服の集団は、特別なこの空間を厳かな気分にさせる事に成功させていた。しかも先頭の紫の聖騎士は、柔らかな銀色の巻き毛を顎の側に下ろして、見たことのない深い紫色の瞳を、その美しい顔に輝かせていた。 噂に聞くより印象的なその美しさは、もはや男女の別を超えて誰もが見惚れてしまうものに他ならなかった。彼は皆が知るところの悲劇のケルビーノ伯爵でもあった。それがまた、彼を特別なものとする気持ちを引き立てていたかもしれない。 そんな事を考えながら、私が思わずため息を吐いたその時、通り過ぎる紫の聖騎士がこちらをチラリと見て、確かに微笑んだんだ。私は胸がギュッと締め付けられて、呆然としてしまった。けれども、同じ様に感じた者は多かったようで、皆が魅入られるように、かの青年騎士をうっとりと見送っていた。 もはやこの国の祭礼に紫の聖騎士はなくてはならないものになって、私は次の祭礼にも必ず足を運ぶだろうと、彼のバランスの良い後ろ姿を目に焼き付けた。そしてふと聞こえてきた、誰かが楽しげに発した言葉に深く頷いてしまった。 『美しいものは魔に魅入られるのだから、神の元にあるのが相応しい。けれども神もまた魅入られて、堕ちてしまうかもしれないね。』 ****** 後書き ****** 衝動的に書き始めたこの作品ですが、他サイトで思わぬ評価を頂いて、ランキング1位を続けて頂いてから、そう、プレッシャーってやつに怒涛の如く流されてしまいました(^◇^;)BL大賞もあり、いつもと物語の作り方も変えたのもあり、途中から非常に迷いが生じて、気が付けば、あら不思議。闇堕ちしてしまいました!笑 もう、闇堕ちしてからは後ろを見ないで走る事にいたしました。読者様を裏切ろうとも、闇堕ちしようとも、サミュエルはサミュエルなんだ!と楽しんで書くことが出来ました。haha。 エイデン様までちょっとヤンデレ気味。アルバートだけが揺るぎなかったですね。ざまぁも平和主義な私には書きにくく、もう一人の偽サミュエルも、読者様のご心配の声に応える結果に出来たかなと思います。 他の連載中の作品もコツコツ楽しく書いてますので、良かったら冒頭だけでも読んでみて下さいね~♡コプラの作品にたどり着いて下さった皆様に感謝しております!ありがとうございました♡
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