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突然の目覚め
僕はベッドに横になっているみたいだった。何だか湿っぽくて寝心地は良くない。そもそもこの部屋は小さな窓から差し込む光に埃がキラキラ光ってるし、空気も澱んでいる。
あ、誰か部屋に近づいてきたみたいだ。随分大声でがなっているな。どうしよう。状況が分からないから取り敢えず寝たふりが正解か?そう思う間も無く、部屋の扉が乱暴にギシリと開かれた。
「とうとうくたばったのか、こいつは。…なんだ、生きてるじゃないか。案外人間てのは丈夫なもんだな。まぁうっかり死人を出すのは、詮索されたら面倒だからな。あの子が貴族界にデビューする10歳まで、生かさず、殺さず、飼い殺しにしておけ。
決して余計な事はするなよ。お前も自分の身が可愛いだろう?結局私もお前も同じ穴のムジナさ、はははは。」
そう言って、薄目にも感じる恰幅の良いおじさんは、満足そうに部屋をのしのしと床を軋ませて出て行った。がなり立てていたおじさんと一緒に、誰か部屋に入っていたらしい。その人物は僕のベッドへと近づくと、手をぎゅっと握って涙声で囁いた。
「サミュエルお坊ちゃん、婆やを許してくださいましね。私では、こんな酷い状況から助けて差し上げられないんです。サミュエルお坊ちゃんのお命は、婆やと爺が命をかけてお守りいたしますからね。」
そう僕の側で優しく話す声に励まされて、僕はソロソロと瞼を開けた。目の前には60歳ぐらいの優しそうなおばさんが涙ぐんで僕を見つめていた。
「まぁ!お目覚めになったのですね?ジョージ!ジョージ、来て頂戴!」
ドタドタと慌てた足音が近づいて来て、部屋をバタンと開けた。
「マリアどうした!サミュエルお坊ちゃんに何かあったのか!?」
そう言って僕を心配そうに覗き込んだジョージと呼ばれた無骨なおじさんに、僕は思わずにっこり微笑んで声を掛けようとしたのに、喉がカラカラで言葉が出なかった。
コホコホと咳き込むと、慌ててマリアが僕を抱き起こしてカップから水を飲ませてくれた。僕は咳き込まないように、ゆっくりと水を飲むと、僕を見守ってくれているマリアとジョージを見つめて言った。
「…マリア?…ジョージ?僕どうしたんだろう…。」
僕は用心深く余計なことを言わなかった。何がどうなっているのか全く分からないから、まずは状況を把握しなくちゃいけない。すると、マリアが涙で潤んだ眼差しを僕に向けながら思いがけない事を言ったんだ。
「サミュエルお坊ちゃんは2日前にお庭で雷に打たれて、九死に一生を得たんでございますよ。本当に一時はダメかと思いました。確かに息をしていませんでしたからね。
でも、その瞳の明るさを見たらもう安心です。…ゲッダム男爵は滅多にここにはいらっしゃられませんから、ゆっくり休んでいて下さいましね。」
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