〈23〉ヒーロー登場

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〈23〉ヒーロー登場

すると千歳シンジはふたたび眉間に皺を寄せ、今度は苦笑した。 「……その自己評価はちょっと卑屈すぎやしない? 永田君。それに頭っからシュートの気持ちを否定するのも俺にはちょっと頂けないな」 「はぁ? 貴様のような非の打ちどころのない完璧人間を好きだった奴が、いきなり正反対の拙者を好きになるなんてどう考えても冗談にしか思えないでござろう! 信じろっていう方が無理があるでござる!!」  僻み根性丸出しというか、コンプレックス刺激されまくりというか……みっともないのは自分でも痛いほど分かっている。それでも。 「モブはモブなりに小さな幸せを見つけて、この世界の片隅で一生懸命生きてるのでござる。馬鹿にするなよ、ヒエラルキー最上級国民が……」  キラキラした奴は、キラキラした奴とだけ一緒に居ればいい。ただ巻き込んでくれるな。拙者の幸せは、二次元にあるのだから。  そうだ、新しい二次嫁を探そう。そして八代のことはもう二度と考えないようにしよう。それが最善でござる。 「分かったらいい加減に腕を離せや、千歳シンジ!!」 「あれ? 永田君ってメガネ取ったらわりと小動物みたいで可愛いんだな。メイク映えしそうだし、今度オレとも遊んでよ」 「んなっ!?」  い、いつの間にか瓶底メガネを奪われているゥゥ!? いかん! 拙者のようなモブが千歳シンジのようなイケメンを直視したら目が潰れる!! 今まではメガネがあったから平気だったのだが……!!  拙者は千歳シンジを視界に入れないよう、ギュッと強く目を瞑った。けどそれがまずかった。 「──それに小柄だけど、胴体と足の長さのバランスはいいからレディースも着こなせそうだな、RIONみたいに。あ、お尻の形もいいなー」 「ななっ何をするでござるか!? この変態!! 触るなぁー!!」  目を瞑った隙に千歳シンジにペタペタと身体中を触られている!! 何故か尻も揉まれている!! 目を開けたらオーラで目をやられるし、階段だから迂闊に逃げられない!!  おいっそこで隠れてる腐った連中! 助けやがれー!! ニヤニヤしながら見てるんじゃねぇぇ!! 「あっ!」 ”あっ?”  雨宮氏と思われる声が、やや遠くから聞こえた。  そして、その次に聞こえた声は…… 「シンジ! 永田くんに何してるんだ!!」 ……や、八代!? な、なんでここにいるでござるか!? 「あれ? シュート今部活中じゃなかったっけ?」 「そんなことどうでもいいだろ! シンジ、永田くんを離せよ!」 「はいはい、離すからそんなに怒るなよ」 「おわっ!?」  視力(※メガネ)を奪われたままいきなりパッと腕を離された拙者は、バランスを崩して階段から派手に転げ落ちた。  ……と思ったら、誰かに抱きとめられていた。いや、誰かって1人しかいないが……。  でもそれが誰かなんて考えたくない。考えたくないから、目が開けられない。全身から冷や汗がダラダラ流れている。  すると抵抗しなかったためか更にぎゅうっと抱きしめられた。 「いやいやいや、離せよ!? 助けてくれたのは有難いけど何どさくさに紛れて抱きしめてるでござるかァァ!?」  やはり拙者を抱き締めているのは八代だった。奴以外にはいねーでござるが。 「……離さない」 「何でだよ!?」 「きみのことが好きだから。俺が本気だって分かってくれるまで、絶対に離さない!」 「はあ!? 分かりたくねーでござるよ、そんなもん!!」 「……それって、裏を返せばずっと抱きしめてて欲しいってこと?」 「なんっっでそうなる!?」 「それならそれで大歓迎だよ」  い、意味がわからん……! 八代が本気で拙者のことを好きだなんて、誰が本気になんかするか! あ、でも認めないならこのまま離さないって? 何でコイツはそこまでするでござるか!?   「俺は本当に永田くんが好きだよ……何で分かってくれないの? からかってないし、冗談なんかじゃないよ」  こんなの、拙者のことを本気で好きだからとしか……  え?  拙者は思わず、目を開けてしまった。すると空気清浄機人間こと八代の切なげな表情が、拙者の視界いっぱいに広がっていた。 「っ……!」  それはあまりにも近すぎて、だんだんピントがずれて……最後には見えなくなった。 「ん!?」  ふと、唇に濡れたような生暖かい感触がした。そして、完全に息が塞がれる。んんんんん!? 「きゃーっ! キスしたああーっ!!」 「やばい! 撮って撮って撮って!!」 「平凡受け最高ぉぉ!! 八代先輩グッジョブゥゥ!!」 「ちょ、みんな静かにしてよ!! ムードぶち壊しだから!!」  遠くで腐女子&腐男子の歓喜の悲鳴と、近くで千歳の『おお~』という感心したような声が聞こえた。それとパチパチと軽く手を叩く音。拍手すんなや千歳シンジ!!  ……なんてことを冷静にツッコめたのは、0.00001秒くらいのホンの一瞬だった。 「ンンッ……はぁ、やめ……っ!」  拙者は何故か八代に熱烈な口付けをされていた……え?(パニックすぎて一周まわって冷静になった永田氏)もちろん、生涯誰ともする予定のなかったファーストキスでござる。 何故、拙者は八代と……?  ああああもう、ワケが分からんでござるぅぅ!!
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