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〈25〉千歳神の考察
すると、何故かまた八代が拙者の許可なく抱きしめてきた。
「お、おいっ!? 貴様また――」
や、やばい、この状態でまたさっきみたいなキスをされたら拙者のアレがアレになる可能性がなきにしもあらずだ!!
そんな恥を晒すくらいなら、いっそ舌噛んで死ぬ――
拙者の考えを読んだのか(?)八代は突然スッと身体を離した。「!?」
拙者の腰に腕を回したままなので完全に離れてはいないが。そしてさらにとんでもないことを言いだした。
「……ねえ永田くん、本当は君も、俺のこと少しは好きだよね?」
「は!?」
今度はいきなり何を言い出すでござるかぁぁっっ!?
「せ、拙者は貴様のことなんか全然、ぜんっぜん好きじゃないでござるけどぉ!? そもそも三次元の男なんて――」
「本当に? じゃあ、何で昨日は逃げたの」
八代は拙者のセリフに被せるように反論してきた。ぐう、イケメンは無意識に顔面を武器に使ってくるから本当に腹立つでござるな……!
もちろん逆の立場だったら拙者だってそうするでござるけどォ!!
「いや、だからっ……貴様と一緒にいるのが苦痛だったからだ」
「何で? どんなところが苦痛だった?」
「ぜ、全部だそんなの!! 無理矢理手を繋いできたりするし……!」
すると拙者の言に対して、腐女子&腐男子どもがヒソヒソと話をし始めた。
「普通さぁ、嫌なら振りほどくよね……?」
「うん、秒で振りほどくか悲鳴あげるよね……」
「無理矢理繋がれたとか、むちゃくちゃいやらしくない……?」
「うるせーな外野!! 最後は妙なねつ造すんな!! それとこの野郎がすっげぇ馬鹿力だから、振りほどきたくとも振りほどけないんでござるよ!! 今も!!」
「ええっ八代先輩、馬鹿力なの!? はわわわわ、体格差アンド体力差萌え~!! ヤバイよヤバイよ~!! 俺萌え死んじゃうよ~!!」
「うっちゃんしっかりしてぇ!」
あ、雨宮氏まで……! もう何を言ってもダメでござるなこいつら。知ってたけど。くそーっっ!!
「でも永田くん、昨日は俺の腕に自分から痛いくらいしがみついてきたよね……? あれはどうして?」
「!!」
そうだった……! リア充たちの巣窟に連れ込まれた恐怖でつい! ああ、拙者は何たる失態を犯したのでござろう……! 恥ずか死ぬ!!
「キャーッッ!! ちょ、今の聞きまして!? 自ら絡めてきただなんてはしたない子!!」
「足? 足の話なの!? 足と腰を絡めたの!?」
「きゃーっ!! 歩く18禁ーっ!」
「腕!! でござる!!」
「それもまたいいーッッ!!」
お前らいい加減にしろと怒鳴ろうと思ったが、なんだかツッコミ疲れて脱力してしまった。こいつらの脳内、本当に腐りきってるでござるな……。
八代にもいい加減に離れてもらいたいが、今腰に回されている手を離されたら拙者、倒れてしまうでござる。(脱力してるから)
うう、情けない……。
「要するに永田くんはさ、俺に嫉妬したんでしょ?」
「はぇ?」
しばらく拙者たちの様子を静観してたと思ったら、いきなり何を言うでござるか、千歳シンジ!!
「シンジ、どういうこと?」
「だからさ、せっかくのデートなのにシュートが俺に関係ある所にばっかり連れて行くから永田君は嫉妬したんじゃないの? 昨日デートコースを聞いてそう思ったんだけど……。ま、実際俺にはあんまり関係ない場所ばっかりだけどね。インタビューで答えたレストランはモデル仲間に勧められただけだし、シュート達が買い物した店の専属モデルはRIONだし。大体永田くん、今日初めて俺の顔知ったみたいだし。RIONのポスターを見て俺だって勘違いしたんだろ?」
か、勘違いはまあ、していたが……何故それで拙者が千歳シンジに嫉妬したことになるのか、さっぱり話が分からんでござる。
「なるほどー! 永田氏は八代先輩の影に千歳先輩が見えて、それで嫉妬して逃げたってことかぁ! 千歳神の考察力パねぇ~!!
新刊のネタにしよー!!」
「新刊ってなんのこと?」
千歳シンジの考察に、何故か雨宮氏が一番興奮していた。おいコラBL漫画のネタにすんな。それより、拙者が千歳シンジに嫉妬しただと……!? そんなわけあるか!! だってそんなのまるで、
「そうなの? 永田くん。じゃあやっぱり俺のこと」
「ちっぎゃーう!!」
「すごい分かりやすいけどなぁ、永田くん。さっきもシュートを俺に取られたくないからって俺にマジギレしてたじゃん。……って、もうこんな時間!? 俺、仕事だから行くよ。永田くん、急に呼び出してごめんな。シュート、また明日話そう。他の子ももう外暗いから気を付けて帰りなよ!」
千歳シンジは軽快な足取りで無駄にカッコよく階段を降りて行った。つうかなんかさっき、すんげぇ勘違いしたこと言ってたような……。
「千歳先輩、お仕事頑張ってくださーい!」
「うん、頑張るね!」
「来月も先輩が載ってる雑誌絶対買いまーす!」
「ありがとう! お財布に余裕あったらよろしくね!」
「今度は是非モデルとして美術部に来てくださぁい!」
「うん、でもヌードは勘弁してくれる?」
「「「きゃ~~!!♡♡♡」」」
な、なんだあいつら(腐女子三人組)……千歳シンジに対していきなり普通の女子みたいな態度取りやがって。ハート飛ばしても今更遅すぎるだろ!!
「彼氏さんとの惚気インスタも楽しみにしてまーす!!」
「ははっ、エッチな内容でもいい?」
「是非ィィィ!!!」
「ぎゃああああ!!♡♡♡」
お前らは……マジで自重という言葉を知らないんでござるか?
「――永田くん、」
ハッ!
「べ、別に拙者は千歳シンジに嫉妬なんかしてないからな、勘違いすんなでござる!!」
まだ拙者の腰を掴んでいる八代が至近距離で見つめてきたから、思い切りそっぽを向いてそう言ってやった。つーか顔近っ! 息がかかるから離せやッッ! もう力も戻ってきたからぁ!!
「ほんとうに?」
「本当でござる!!」
「ぜったいに?」
「絶対でござる!!」
「神に誓って?」
「か、神に……!?」
果たして拙者、神に誓うほど千歳に嫉妬などしていないと言い切れるのか……!? いや、言いきれる! 言いきれるぞ!!
一瞬返事に迷ったら、八代がくすぐったそうに笑った。
「あははっ! 本当に永田くんって正直者だよね。俺、君のそういうところがとっても好きだよ」
「あっそう……」
「俺、きみのこと絶対諦めないからね」
くそッ、もう好きにしろ……なんかもう、考えるの疲れたでござる……。
「あれ、永田くん、永田くーん!? ねえ雨宮くん、永田くんが返事しなくなっちゃったんだけど!?」
「あー、これは燃料切れですねぇ~」
「燃料切れ!?」
そうそう、燃料切れ。って拙者はロボットでござるかーッ! ……はあ、ツッコむ気も起きない。あまりのキャパオーバーで脳が疲れたから、進行は雨宮氏へお返しするでござる……。
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