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〈2〉どうしてこうなった?
ひとりでとっとと帰ろうと思ったのに、結局奴はついてきた。
「待ってよ永田君、一緒に帰ろうってば~」
「ええいついてくるな、うっとおしい! だいたい貴様の家は拙者の家とは逆方向でござろう!」
「よく知ってるね。永田君は電車通学だよね、駅まで送っていくよ」
「人の話を聞けっつうの……」
ああ……もういい、諦めた。いつもどおり適当に相手をしながら(ほとんど無視に近いが)やり過ごすとするか……。
「ふふ、駅に着くまでデートみたいだね」
「ナチュラルに手を繋ぐな、うっとおしい!」
こうやって手を繋がれることもすっかり日常的だが、別にこれは許してるんじゃなくて奴が馬鹿力で振り解けないだけでござる。いや、マジで……。
*
――この爽やか野郎に電撃告白をされて、約一ヶ月が経つ。
一度だけ気の迷いで……というか、奴の強引さに負けたのだが、デートらしきものをした。その後も色々面倒事があったが、それでめでたく拙者もこいつのことを好きになって、今は無事に付き合っている――……とか、そういう腐女子が喜びそうな展開は断じてないッッ!
まあデートのときは暴走自転車から守ってくれたり、雰囲気のいいレストランで食事をおごってくれたり、センスのいい服を選んでくれたり、色々と世話してもらったが……それでもだ!!
奴が前に惚れていた千歳シンジの代わりにされたと勘違いしてムカついたこともあるが、あの時は拙者も少しトチ狂ってたでござる。
あんな超絶イケメンの代わりなんて、世界中探しても……は、ちょっと言い過ぎか。そこら辺を探してもなかなかいないだろう。なのに自分がその代わりと思うとか……
自意識過剰すぎた――ッッ!! 恥ずかしすぎる勘違いなので、あの時のことは全人類に忘れて欲しいッッ!!
まあそんな感じで色々あったのだが、未だにこの爽やか野郎は拙者につきまとうのをやめないのでござる。拙者のことを真剣に好きだというのは、まあ半信半疑だが一応信じてやるとしてだな……。
でも。
でもだ。
拙者自身は一度もこいつが好きだ、付き合いたい、などと思ったことも言ったこともないのでござるよ!?
なのに何故か周りは拙者たちがくっついたと思っているようで……特に腐の者どもは! あと拙者のアニヲタ仲間も!
八代は八代で毎日耳がかゆくなりそうな甘い言葉を囁いてくるわ、許可無く手を繋いでくるわ、隙あらば人前でもキスしてくるわ……。
あれ……?
だだだ、断じて!!
付き合ってなんかいないでござるよ!?!?
昼休みも当然のように会いに来るし、最近は部活中にまで顔を出してくるが!! サッカー部に戻れと言っても、三年は引退したからもう行かなくていいとか。
じゃあ家で大人しく受験勉強してろと言っても『勉強は美術室でもできるし。少しでも長く永田君と一緒に過ごしたいんだ』とか腐の者どもも真っ青になりそうなゲロ甘なセリフを抜かしやがったでござる。(その後奴らはとても喜んでいたでござるが)
しかし八代が美術室で勉強してるところなど、一度も見たことないでござるがな!
どうやら聞くところによると八代は文武両道というやつらしく、サッカー部の元レギュラーでありながら成績も上位らしい。
つまり美術室で勉強せねばならんほどの焦りは無い、ということ。
イケメンでスポーツ万能でそのうえ勉強もできるとか、もう死ねって感じでござるな……。
拙者はチビでブサイク(平凡顔)なうえに、運動音痴で勉強も苦手だというのに。どうしてこうなった……。
拙者のことはともかく、この八代という男、生来の同性愛者なのかどうかは知らないが男のシュミだけは悪かったようだ。
いや、千歳シンジのことを思えば決して悪くなかったと思うが……千歳は男が惚れてもおかしくないくらいカッコイイしな。
奴もどうしてこうなったでござるか……。
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