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先を行く制服の背中に、僕も汗をかいて全力で自転車を走らせる。
「待って、ミキちゃん!」
「待たないー早くしないと、赤トンボに逃げられちゃうから!」
笑い声とともに彼女が漕ぐスピードを上げて、二人の距離が瞬く間にひらいていく。
追いつこうとしてもなかなか追いつけずに離されるばかりだった間が、彼女がブレーキをかけて止まったことでようやく縮まった。
「……見えなくなっちゃったー」
ミキちゃんが空を見上げて口にする。
「……またか、」
止めた自転車を片足で支えつつ、
「あの時と同じだね」
そう呟いた僕に、
「……あの時?」
と、彼女が不思議そうに首を傾げた。
「いや……」と、首を横に振る。
そうか……さっき彼女は憶えていたふりをしていただけで、あの日に赤トンボを二人で追いかけたことは、本当には何も憶えてなんかいなかったんだ……。
なのに僕に話を合わそうとしてくれていたことに、胸の奥を切なさが無性に込み上げた……。
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