44人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
僕らが自転車を停めた傍らには、廃れて形ばかりになった、寂れて色の褪せた鳥居があって、山肌を転げ落ちてきたのか、鳥居の脇には大きな石がでんと横たわっていた。
「疲れたー」と、彼女が座り、「隣、座りなよ」と、場所を空けてくれる。
「ありがとう……」
少しだけ間を空け、彼女と離れて腰を下ろした。
何か喋らなくてはと思いながら話し出す糸口を見つけられず、手持ち無沙汰にふと空を見れば、気の早い一番星が煌めいていた。
「あ、一番星だ」
僕が口に出して言うと、
「ほんとだね」
と、彼女も空を眺めた。
「……ねぇ、コウ君。コウ君は、高校はどうするか、もう決めた?」
「……高校? 僕はまだ決めてないけど、たぶん地元の高校に行くかな」
そう何気なく答えると、
「そっか、」
ミキちゃんが頷いて、
「私は、東京の高校に行こうと思ってるんだ」
と、話した。
「……東京の高校に。そうなんだ……」
中学までの義務教育期間が終われば、否が応にも進路を決めなければならなかったけれど、僕には彼女のような差し当たっての目標も特になかった。
「うん、私ずっと東京に行きたくて、親も高校に受かったら一人暮らしをさせてくれるって言ってるし」
「そうなんだ……」
既に未来を考えている彼女が眩しくも感じられるのと同時に、遠く離れた地へ行ってしまうことに、ふと胸が締め付けられるのを感じた──。
最初のコメントを投稿しよう!