あの日、君と見た夕暮れに

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僕らが自転車を停めた傍らには、廃れて形ばかりになった、寂れて色の褪せた鳥居があって、山肌を転げ落ちてきたのか、鳥居の脇には大きな石がでんと横たわっていた。 「疲れたー」と、彼女が座り、「隣、座りなよ」と、場所を空けてくれる。 「ありがとう……」 少しだけ間を空け、彼女と離れて腰を下ろした。 何か喋らなくてはと思いながら話し出す糸口を見つけられず、手持ち無沙汰にふと空を見れば、気の早い一番星が煌めいていた。 「あ、一番星だ」 僕が口に出して言うと、 「ほんとだね」 と、彼女も空を眺めた。 「……ねぇ、コウ君。コウ君は、高校はどうするか、もう決めた?」 「……高校? 僕はまだ決めてないけど、たぶん地元の高校に行くかな」 そう何気なく答えると、 「そっか、」 ミキちゃんが頷いて、 「私は、東京の高校に行こうと思ってるんだ」 と、話した。 「……東京の高校に。そうなんだ……」 中学までの義務教育期間が終われば、否が応にも進路を決めなければならなかったけれど、僕には彼女のような差し当たっての目標も特になかった。 「うん、私ずっと東京に行きたくて、親も高校に受かったら一人暮らしをさせてくれるって言ってるし」 「そうなんだ……」 既に未来を考えている彼女が眩しくも感じられるのと同時に、遠く離れた地へ行ってしまうことに、ふと胸が締め付けられるのを感じた──。
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