あの日、君と見た夕暮れに

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「……いつまでもこんな田舎にいたって、つまらないしね」 ミキちゃんは、独り言のようにも続けると、 「だから、絶対に受かるように、今は勉強を頑張ってるんだ」 僕に、屈託のない笑顔を向けた。 「……そうなんだ」 相変わらずそれしか返せずに、直視することすらできない彼女の笑い顔から、ふっと目を逸らした。 未来を語るミキちゃんの顔には、かつてと同じように赤く夕日が差していて、バラ色にも輝いて見えるようだった。 「ねぇそうだ、コウ君。思い出にここへ名前を刻まない?」 「……え、名前?」 「そう、二人の名前。私が東京に行っても、コウ君、私のこと忘れないでいてね?」 「ああ、うん……。忘れないよ……」 「じゃあ、私が先に書くから、コウ君はその横にお願いね」 お財布から十円玉を出して、石の上に"ミキ"と刻んだ彼女の隣へ、"コウ"と刻み付けた。 「これでもう、私のこと忘れないよね?」 頷いて、忘れないよ……と思う。 きっと、忘れない……。忘れられない……。
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