あの日、君と見た夕暮れに

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……遠く近くひぐらしの鳴く声がカナカナカナ……と聴こえて、思わず無意識に流れた涙に、 「ねぇ、泣いてるの?」 と、彼女に顔を覗き込まれた。 「あっ……ごめん、ちょっとその、ひぐらしの声とか、なんだか寂しく思えて……」 とっさに自らの気持ちをあやふやにごまかして、拳で目を擦って口にすると、 「もしかして……、私と離れるのを寂しいと思ってくれてるのなら、ちょっとうれしいかな……」 僕の心情を察したのか、彼女が微かに潤んだようにもうかがえる眼差しで、じっとこちらを見つめた。 「ああ、うん……。けど泣くとか、やっぱりかっこ悪いよね……」 上手い返しも見つけられずに、作り笑いを浮かべる僕に、 「ううん、そんなことないよ」と、彼女が首を振る。 「……ねぇ、コウ君」 呼びかけられて、顔を向けると、 「……涙の零れ落ちる速さって、あるのかな?」 ふいに、そう訊いてきた。 「……涙の、速さ?」 急に何のことだろうと尋ね返す。 「なんかね、コウ君の涙を見てたら、そういうのってあるのかなって、ちょっと思って。はいコウ君、涙の零れ落ちる速度を、求めなさい」 ミキちゃんが、先生みたいな口調で言い、ふふっと笑って見せる。 「……わからないな、涙の零れ落ちる速さの求め方なんて……」 自分も笑って答え、夕空を見上げた。 流れる沈黙の中で、一瞬だけ手が触れ合うと、きっとこの夕暮れのどこか物悲しいような雰囲気に呑まれて、彼女もただノスタルジックな気分に浸っているだけなんだろうと、僕はぼんやりと感じていた……。
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