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「あっ、コウ君! 元気だった?」
僕を見つけた彼女が、ぽんと肩を叩いた。
「う、うん、ミキちゃんも元気そうだね」
叩かれた肩に、じんわりと熱がこもるのを感じつつ、やや緊張して応じた。
「そう、向こうがすごく楽しくてね」
「……そうなんだ、とってもきれいになったよね?」
むせ返るようにきつい香水の匂いから顔をうつむけて、口にする。
「うれしい、ありがとうね」
口先ばかりのお世辞を知ってか知らずか、彼女は赤く艷やかな口紅の付いた唇を引き上げて愛想良く微笑うと、みんなが呼んでるからと、友人の輪の中へ戻って行った。
同窓会で彼女と交わした会話は、たったそれだけだった。
あの頃のことなんて、もう何も彼女は憶えてはおらず、全て忘れてしまったんだと思うと、ただ虚しさだけが残った。
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