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「それにしても、夏村さんに限らず、営業畑の人って普段から自分が騙している側の人間だと思いがちだよね?
騙されている事に気付かない」
それって、どういう意味?
岡崎社長に、私は騙されているの?
「岡崎社長に、私何か騙されているのでしょうか?
確かに、私、こんな場所に簡単に来てしまって…」
いつもの私なら、こんな風に簡単に来なかったかもしれない。
例え、月に百万という金額に目が眩んでも。
「確かに、夏村さんの事をそうなるように誘導した。
嫌われない程度に、俺の事を怖いと思わせて。
愛人にならないか?と持ち掛けたけど、それを断ったらどうなるか、という情報を与えず。
きっと、怖いと思っている俺なら、断ったらクビにされるんじゃないか、とか夏村さんはそんな事を考えたでしょ?
そして、俺が、断ったらって話を全くしない事で、夏村さんの頭の中でその選択肢は角に追いやられて行く」
「はい。確かに」
クビにされると考えたのは束の間だけど。
愛人になってからの話ばかりされて、断る事はいつの間にか頭の片隅だった。
「相手に考える間を与えないのもそうだけど。
あの場所はとても寒くて。
早く答えて、この寒さから夏村さんも解放されたくて、あまり考えないまま、その答えを口にした」
そういえば、寒いから早く決めて欲しいと言われ。
私も、早く答えてこの寒さから解放されたい、と思った。
「後は、タクシーの中で夏村さんと距離を近くして。
親しくなった俺には、愛人になる事をちゃんと断れたでしょ?」
そう言われれば、そうなのだろうか…。
冬野の顔が浮かんだのもそうだけど、タクシーに乗る前と後では、この人に対する恐怖心みたいなものが全然違う。
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