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◆
結晶になったソワレを見送って、ノマドは創造主に呼ばれた。右脚の機能不良は応急メンテナンスでなんとか歩行可能であったが、誰が見てももう廃棄の対象だった。
「ノマド、ご苦労だった」
基本、ノマドにとって創造主はモニター越しで、メンテナンスをするときしか接触はない。ぽんと肩に手を置かれ、労われたことなど初めてだった。
「ありがとうございます」
それでも勝手に返答が出てくるのはコミュニケーションプログラムの賜物だ。
「次の仕事を……。いや、……破棄専門のアンドロイドを紹介するよ」
人間が連れて来たのは、ノマドと同じさらさらとした黒髪で、チャコールブラウンの瞳の木製アンドロイドであった。見た目は同じであるが経てきた時間が違うため、肌の艶はまるで違っていた。つやつやと塗られたばかりの四肢は肌色に光り、関節などどこも軋む音などしない。
「ほら、挨拶を」
「ハジメマシテ」
「マスター、このアンドロイド……」
「ああ、ノマドの知能なら分かるな? この新型には学習するICチップを搭載している。破棄される前の木製アンドロイドと交流させることによって、どこまで、ICチップが進化するのか。新たな試みだ。……まあ、ノマドにとってはもうどうでもいいことだろうが、100年も役割を果たしたんだから、知る権利がある。旧式を作った前任者の意図を汲んで、破棄アンドロイドが怯えないよう同じ形にしたらしい」
破棄されていくアンドロイド達がノマドより優秀になっていることに、ノマド自身も気が付いてはいた。ただ、面と向かって破棄の通告をされると、体がどころか思考も、凍結したかのように固まった。
「キイテイマスカ。ボクハモット、ジョウズニハナセルヨウニナリタイ」
「……聞いているよ」
「ノマドにも他のアンドロイドと同じように、焼却前に1日だけ好きなことができる特別な時間を与える」
「……あの、」
「なんだ?」
「新型の……、名前は?」
「んー? そうだな。俺は新型としか聞いていない。……そうだ、お前がつけてやったらどうだ。あーでも、いくら100年間作動したからって流石に名前をつけるほどの創造力はないか……? うーん……」
「付けられます。僕が名前をつけます」
目の前の人間が頷いたのを見たとき、ノマドの心は決まった。
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