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「トクベツナイチニチ、ナニヲシテスゴシマスカ? ユウエンチ? スイゾクカン?」
「いや、いい。僕はここで過ごすよ」
大画面のモニターで粉雪が舞う。ノマドはその光に照らされながら、やけに静かな自分のプログラムを分析していた。預かったICチップ達が共鳴しあうかのようにノマドの中で小さな音を立てている。それは悲鳴にも似たものだった。
「ココ? トクベツデハアリマセンヨ?」
「そうかな? 僕は今日初めて創造主に労われたんだ。それに君に名前をつける役割を貰った。破棄される子じゃないアンドロイドと話すのは初めてさ」
ノマドの中の感情プログラムと好奇心プログラムがシナプスを派生し、繋がる。
「これがどれだけ、特別なことか分かるかい?」
「ワカリマセン」
「……新型なのに、なんでコミュニケーションプログラムを最新式にしなかったのかなぁ……創造主が考えることはやっぱり分かんないなぁ」
「ノビシロガアリマス」
「そんな言葉は知ってるんだ。でも、これから破棄される子たちはこんなカタコトなアンドロイドに特別な1日を貰えるのか、不安だよ」
「ダイジョウブニナリマス」
「……本当かなぁ」
ノマドは胸の芯から湧き上がってくる熱いものを感じた。笑い出したいのか、泣き出したいのか、自分自身もよくわからなかった。
「ヘンテコだけど、楽しいね。それより、時間がない。今日中に君に名前をつけなきゃ、っとその前に大事なことを伝えておかないと」
ノマドは床に座り、新型を見た。
充電中にICチップから創造主にデーターを抜き出されていること、抜き出されないためにはアンドロイド独自でICチップの記憶にロックをかけること、暗証番号のシステムは創造主も知り得ないシステムのバグがもたらしたものであること、今まで破棄してきたアンドロイドのこと、もちろんソワレのことも。
「ヒキツギ、アリガトウゴザイマス」
「理解は早いのに、どうしてコミュニケーションだけ退化させたんだろう?」
「ボクニハ、ワカラナイデス」
「……あ、肝心のことを忘れてたよ。……手を出して」
「コウデスカ?」
「もし、破棄されたくない、とアンドロイド達が暴走したり、ICチップを自壊してしまうことがあったら、両手を握るんだ。そして、5秒数えて」
「ドウナリマスカ?」
ノマドはジタンの手を握り、ゆっくりと5秒数えた。糸が切れたように新型アンドロイドがノマドにもたれ掛かる。
「強制終了し、廃棄業務に移りますか?」
「いや、再起動を。そして、ICチップに「jitan」と明記して」
「承知しました。ジタンを再起動します」
ジタンと命名されたアンドロイドは電子音を発しながら、目を開けた。
「ボク、ネテマシタ?」
「……いうことを聞かない子が居ればこうやって、廃棄してね」
「キョウセイシュウリョウデスネ。ソレト、ナマエ、アリガトウゴザイマス!」
「さぁ、名前を付ける役割も終わったし、僕はそろそろ、焼却炉に行くよ」
「エ、モウソンナジカンデスカ?」
「……この部屋には窓がないから、分からないだろうけど、もう日没だよ」
唯一の扉を開けると、夜空には船のような月が浮かんでいた。
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