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「大事なものをジタンに託すね」
ノマドは右耳の裏に暗証番号を打ち込んだ。頭に詰め込んだICチップを丁寧に取り出し、手に渡してゆく。
「この子は眠りから醒めるとき怒っているかもしれない」
ICチップには「sowale」の名前。
「ドウシテ、ICチップヲモヤサナカッタノデスカ?」
ジタンに問われ、ノマドはふと疑問に思った。どう分析しても自分のこの行動に理由を見出せなかった。
「なんでだろうね……。ソワレは、破棄を望んでいた。ICチップを保存する必要なんてなかった。なのに……、自由になると命って輝くって言ったけど、僕はそう思わなかったからかな?」
「チョットムズカシイ」
「難しい……? 命って儚くも美しいって創造主は言うけどさ、僕は貪欲で他の動物を淘汰したい種族だからこそ、この星の支配者になれたんだと思うんだよね。だから、続いていく命にこそ意味があると思ってるんだ」
「ヤッパリムズカシイ」
「これから、勉強してね。……僕は少し休む。次に起きたときは君がカタコトじゃないことを楽しみにしてるよ。……あとは、よろしく」
ICチップを外す瞬間、胸の芯が燃えるように熱くなった。
ああ、これがひょっとしたら「寂しい」という感情なのかもしれない。理屈ではない何かが、僕を動かしていたのだと、ノマドの電源は切れた。
「nomado」と表記されたICチップは外され、ノマドの身体はカラクリ人形の糸がきれたかのようにその場に崩れ落ちた。ジタンはICチップを拾って、最新の注意を払って頭に入れた。
ジタンは急に世界がクリアになったような気がして、ノマドを抱えて部屋を出た。目指すは焼却炉。数時間後には炉から立ち昇ってゆく灰。それはやがて、はらはらと舞い踊り始める。視界一杯の灰吹雪、花が散るよう潔く舞う命。そのうちの、ひとひらの結晶がジタンの瞳に張り付く。
そして、小さな意志が芽生えた。
―――ボクタちハ、トくベつナ、イチニチヲツカッて、えいエんニつながっテゆく。いつか、創造主と同じ生き物として、自由な意志を持てることを夢見て。
End.
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