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「ひぃ、ふぅ……私、フルパワーで仕事を終わらせてきて……すごく、疲れているのに……」
何というしごきのようなナイトデート。
だからイヤだったのだとは言えないけれど、言ったところで彼が思い立ったら吉日だと、考えを曲げない人だと知ってもう長い。
彼はいつも自分本位に動いてしまう人なのだ。
でも、何というか憎めない。
そこに愛がないわけではないとも知っているからなのだけれど、ついて行くこちらは割と大変。
だって、久しぶりの再会なのよ?
こちらはへとへとの上に、汗だくなんてあんまりだ。
お洒落をさせてくれるデートプランを選んでもくれないなんて、文句の一つでも言ってやりたい。
「もう少しだから頑張って」
彼は振り返って、私に手を差しだした。
その手を掴んで、力の限り引っ張り倒してやろうかしらなんて、良からぬ妄想を私がしているなんて、きっと、思いもよらない。
だって、純粋に満面の笑みだった。
いつもそう。
この先にきっとすごいものがあると、期待に目を輝かせている。
だけど私は知っている。
この先にあるものが何なのか。
だって、この地に移り住んで二年になるのよ?
知らいでか!?
岩座からの展望だ。
私は星のない夜空を眺めて、小さく溜息を吐いた。
そりゃあ、出来ることなら私だって彼に見せてあげたかったわよ?
だけど、生憎と天候が天候だから、今日という日は彼が期待している絶景は望めない。
彼はきっと、勘違いしているのだ。
近頃、バズっている夜景とはこの街並みの夜景ではない。
海を挟んだ対岸の夜景までを見渡せてこその絶景なのだ。
「雨、降りそうね……」
私は小さく零して、そうとだけはなって欲しくないと願っていた。
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