都合

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   ◇  祐司と久留実が別れたのは、今から五年前。  若くして結婚した祐司は誰よりも早く成功を掴んでやろうと必死だった。家庭を顧みず、ひらすらに仕事に打ち込んだ。その甲斐あって、同年代の同僚達の中では誰よりも早く肩書らしきものを得る事ができた。これでようやく家族にも少しは還元してやれるとほっとした頃、久留実に三行半を突き付けられた。あまりにも当然の成り行きだった。  親権は当然のように久留実に渡った。のみならず久留実は祐司と一切の縁を切りたいと主張した。久留実の中では、それだけ祐司に対する不満や反感が蓄積していたのだ。祐司は養育費を払う事を条件に、一年に一度だけ勝仁に会う権利を得た。背に腹は代えられない久留実は、嫌々ながら了承した。  なかなか父親らしい行いもできなかった祐司だが、別れた後も勝仁はそれなりに父親として慕ってくれた。別れた当初は面会日の度に祐司が用意する誕生日プレゼントに顔を輝かせ、ステーキハウスに連れて行けば、よだれを垂らさんばかりの勢いでステーキにかぶりついた。別れ際に「また一年後な」と声を掛ければ「もっと早く会えたらいいのに」と寂しがった。  ところがどうだろう。多感な時期というのは誰しもあるものだが、中学生に入ったあたりから、勝仁の様子は変わってしまった。せっかく祐司と会っても喜ぶ様子を見せないどころか、ほとんど会話らしい会話すらもなくなってしまった。  中学生にもなれば物事の機微もわかるようになる。自分の父親がどんな人間か、どうして両親が離婚したのか、そんな一つ一つの事情が見えてきただけなのかもしれない。久留実は決して祐司の事を良くは言わないだろう。勝仁の中に父親に対する愛情どころか、反発や、まかり間違えば憎しみだって生まれてもおかしくはない。 「そろそろ帰るか」  自分の分を食べ終えた後、ぼーっとテーブルの一点に視線を落とす勝仁に祐司は切り出した。勝仁は小さく頷いた。皿の上には細切れにされただけでほとんど手つかずのステーキが残ったままだった。  父と息子の五度目の面会は、こうして会話らしい会話もないまま終わった。
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