3人が本棚に入れています
本棚に追加
高校に入学してすぐに行われたクラスでの自己紹介。俺は特に聞く耳を持たずに外を眺めていた。何となく名前を聞いて、すぐに忘れる。まさに右から左に情報が流れていく。でもふと、そいつの声を聞いた瞬間、窓の外からそいつに視線を移した。周りがざわざわしていたのもあったからだと思う。初めてそいつを見た時、俺は目を丸くした。
「初めまして! 小森太賀です! 可愛いものがだーいすき! 男として生まれてきたけど、心は女です! 可愛いについて何か情報があれば、是非共有してください! 宜しくお願いします!」
艶々した長い髪を一つに束ねて、笑顔を浮かべる男。ズボンを履いてはいるが、髪を留めるヘアピンや鞄についているキーホルダーは全部女性向け商品。あまりの衝撃に俺は思わず小森をガン見してしまった。
周りからの拍手に小森が照れながら着席する。と、こちらを向いた。俺はビクッとなる。ニコッと微笑む小森に俺は思わず目を反らしてしまった。あからさまだっただろうか。小森が今どんな顔をしているのかは分からない。俺はおそるおそるまた小森を見ると、小森はすっかり前を向いていた。
クラスでの自己紹介後、小森はすっかりクラスの人気者になっていた。女子に囲まれ、キャッキャと楽しそうにしている。その仕草はまさに女を連想させた。
「あんなに堂々と……」
俺にはできないことを、小森は簡単にできてしまっている。これが自信の差というやつか、と痛感した。俺には小森みたいにオープンにはできない。
最初のコメントを投稿しよう!