いや、俺

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◇  入学してから二ヶ月が経った。相変わらず小森はクラスの人気者で、性同一性障害であることを受け入れられていた。俺はというと、まだうじうじと言い出せずにいる。  学校からの帰り道、俺は学校から少し離れた公園のブランコに腰掛けながら夕日を眺めた。オレンジ色に染まった空に烏の鳴き声が夜が近づいていることを知らせてくれる。ぼんやりと空を眺めながら、小森のことを考えた。  小森のことを受け入れてくれる人間がいれば、当然受け入れられない人間もいる。俺は知っている。男女関係なく小森の周りに集まっていたが、小森から離れた場所で小森のことを「気持ち悪い」と言っていた奴がいたことを。そう思われるかもしれないから、俺はオープンにすることが怖いのだ。それを小森も分かっているはず。  皆が皆、自分を愛してはくれない。好きになってはくれない。自分を好きになってくれる人もいれば、嫌いになる人もいる。好き嫌いなんて人それぞれなのだ。どんなに愛嬌があって、好感度が高い芸能人だって、それをいけ好かないと思う人だっている。 「あれ、松島(まつしま)さんじゃん!」  一人だけの世界から戻ると、目の前には小森がいた。俺は驚いて「うわっ」と声を出してしまう。 「何その反応。幽霊じゃないんだから~」  小森がけらけら笑った。男だから当然声は低め。けれども喋り方は女らしい。もし小森の声も姿も分からず、ただ文字だけでさっきの台詞を見たらきっと俺は女と判断するだろう。 「家、この辺なの?」 「いや、別に」 「私はねー、ちょっと寄り道~」  小森が隣のブランコに座る。体が大きいから、幼児用に作られたブランコに座る姿が窮屈そうに見えた。 「松島さんさ、自己紹介の時に目が合ったよね?」  俺は何も言わない。
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