いや、俺

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「昔から男になりたかった。でも周りからの反応が怖くて、言い出せなくて。ずっと一人で抱えてきたんだよね。スカート履くのにも違和感があったし、可愛いって言われるのも嫌だった。女子トイレに入るのも、女子更衣室で着替えるのも嫌だった。不愉快だった。でも結局周りからの反応が怖くて、言い出せずにだらだらと生きてる。どうすれば、小森みたいにオープンになれると思う?」  俺は小森を見た。小森は顔を上げると、さっき見せた悲し気な表情から明るい表情に戻っていた。 「まぁ、怖いのは分かるよ。私も言うのが怖かったし。受け入れてもらえないかもーって思うよね。でもさ、どんなに受け入れてもらえなくても人生一度きりじゃん? 私、一度きりの人生を絶対に無駄にしたくないんだよね。確かに産んでくれた両親には感謝しかないよ? でもさ、これは私の人生。私は、私のやりたいようにやる! それ一択!!」  小森が立ち上がって、そう空に吠えた。俺を見ると、太陽よりも眩しい笑顔でニッと笑う。 「その気持ちが強かったからかな?」  俺はしばらく考えた。確かに人生は一度きりだ。宗教によっては生まれ変わるみたいな思想もあるけど、俺が松島麻里として生きるのはこの一回きり。後悔なんてしたくない。  俺は立ち上がると、小森の隣に立った。小森は俺よりも背が遥かに高くて、体つきもがっしりしていた。でも心は純粋な女の子だ。俺だってそう。体は女。でも心は立派な男。 「俺も、やりたいようにやる。絶対に後悔したくない」  男になりたい。その気持ちにだけは嘘を吐きたくない。絶対に吐かない。小森に出会えて、そう確信した。覚悟を決めることができた。 「一度きりの俺の人生、行く先は決める」
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