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カーテンを閉めきった自室。下着姿のアタシは隣でスマホを弄るタイガを見ていた。
「ねぇ、一緒にいるときくらい構ってよ」
そう言ってタイガのスマホに手を伸ばす。タイガはすぐに反対の手に持ち替えた。
「さっきまで構ってたんだから、いいだろ」
「そんなことを言わないで」
アタシはベッドに凭れるタイガの背後に回り、スマホを覗き込む。そこには別の女の名前があった。
「誰よ、その女。てか、アタシといるのに他の女と連絡取らないでよ」
「なんでだよ、誰と連絡取ろうが俺の勝手だろうが。だいたいこいつはダチだし」
嘘つき、とアタシはスマホの上部を掴み、取り上げようとする。当然タイガも負けじと引っ張った。
「毎度しつこいんだよ。女っ気あったら、すぐに浮気疑いやがって」
「アンタが疑われそうなことするからでしょ」
引っ張り合っているうちにタイガがスマホから手を離す。自分も手から抜けてしまい、飛んでったスマホは窓から落ちていった。すると、窓の外から声がした。
「莉子、なんか落ちてきたんだけど」
聞き覚えのある声に冷や汗が流れる。母親だ。アタシは慌ててタイガを部屋の外へ押し出す。
「親まだ帰ってこないって言ってたじゃん。どういうことだよ」
「いいから帰って。もう顔も見たくない!」
アタシはアパートの廊下にタイガを押し出し、チェーンと鍵をかけた。ドアを背にしゃがめば、悪態をつきながら離れていく声が聞こえる。
なんで男はみんなすぐ違う女に目移りするしアタシをしつこいとかめんどくさいとか言うのよ。
言われた言葉がフラッシュバックして涙が溢れる。タイガのものだけではない幻聴に耳を塞いだ。
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