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「ねぇ、それって『かみくに』のバッジでしょ? アタシも最近読んでるんだ」  数日後、アタシはブーコにマンガを見せつけた。そこにはイケメンたちの絵と『神々の国にて』というタイトルが書かれている。  人気の漫画の一つで内容はよく分からないけど、イケメンがとにかくいっぱい出てくることは分かっていた。 「そうなの。立原さんも読んでるの?」  ブーコの方がずっと大きいのに、その声は震えている。しかも、よっぽど珍しいのか、友だちやクラスメイトすらチラ見してくる。 「それで、バッジ的に推しは『雷神のソーマ』でしょ?」  問いかけると少し頬を染め、ブーコは頷く。誰であろうと自分が好きなものに興味を持ってもらえるのは嬉しいってことね。  そして、ブーコは同じヲタク友だちにしか見せなさそうな笑みをアタシに向ける。笑っていられるのも今のうちだ。  それからブーコとアタシは『かみくに』の話をきっかけに色んな話をするようになった。家ではずっとマンガ読んでいることが多く、グッズが出たら街の方まで行くことも聞いた。カレシと出かけたりしないのかな。 「カレシいるんでしょ? 一緒に行ったりしないの?」  問いかけると、ブーコの重い身体が跳ねた。急に距離詰めすぎたかな。彼女の顔色を窺いながらも話を続ける。 「確かにいるけど、彼とは手紙で連絡とりあってて、直接は会ってなくて」 「手紙書くのめんどくない? 会ってないって何ヶ月くらい?」 「・・・・・・3年」  思わず固まってしまう。3年も会わないで付き合ってるって言えるの。というかそれ以上に寂しくないの。  頭によぎったのは連絡のこないスマートフォン。何回スタンプを押しても、既読すらつかない。それに涙する自分。 「なんで、平気なの。アタシはちょっとでも連絡取れないとすぐイヤになるのに」  アタシが言うと、彼女はそれが普通だよね、と苦笑する。 「確かに寂しいときもあるけど、そういうときは自分のことを大切にする期間だと思ってるよ、『かみくに』を読むなのもその一つ。そもそも彼、とっても忙しいみたいだし」 「もしかして、社会人?」  尋ねるとブーコは首を振った。 「でも、とにかく大変で今は一緒にいられる状況ではないって言われてる」  またぎこちなく笑う。その視線はやっぱり寂しそうだった。
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