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6
翌日、アタシはいつものように目を覚ます。学校行ってフーコにシーリングスタンプ返さないと。
リビングに行き、スタンプを手にした。そういえば手紙はどうしたっけ。テーブルを見たが、それらしき封筒は置いてない。
奥では母がすでに起きて朝食を作っていた。
「おはよう」
「ねぇ、ここに手紙置いてあったでしょ」
「手紙? あぁ、それなら今朝出しておいてあげたわよ」
その言葉にフーコの寂しそうな顔がよぎる。アタシは急いで部屋を出た。
「莉子、ご飯は? 制服も着てないじゃない」
「それどころじゃないんだよ」
なんでウチの母親はいつもタイミングが悪いんだ。アパートも出てサンダルで走り出す。確か団地を抜けたところにポストがあったはず。
歩道まで出ると赤いポストが立っていた。しかし、その目の前には郵便局の赤いバイクが留まっている。
「あの、待って」
声をかけようとすると、エンジン音を上げバイクは走り出した。追いかけようとしても、どんどん距離を離されてしまう。
ついに、信号で振り切られ赤いバイクは小さくなっていった。呼吸を整えようと深呼吸をするが、心臓の音は早いままだ。
どうしよう、このままだとフーコの彼に届いちゃう。でも、彼の居場所は知らないし。頭を巡らせながらもアタシは足を進めた。バイクがダメなら郵便局に行けば止められるかも。団地を出れば、住宅街のため似たような家が立ち並ぶ。そこから小学生が出てきて数人集まっていた。学校に行く時間だけど、そんなことしてる場合じゃない。でも、郵便局ってどこにあるんだっけ。周囲を見ても分からず、スマホも家に置いてきたし、ただひたすらに走るしかなかった。
徐々に通学や通勤する人も増え、スーツを着たサラリーマンや制服の学生も出てくる。そういう人が増える度に焦りが募っていたそのとき、聞き覚えのある声が背中からした。
「おはよう、朝からどうしたの?」
振り返るとそこに立っていたのはフーコだった。いつもの制服にカバンを持ち、登校中のようだった。彼女は不思議そうにしつつも、純粋な眼差しでアタシを見る。アタシは逆に邪な気持ちで見てきたのに。
「どうしたのって、探してるんじゃないの。あのシーリングスタンプ」
「そうなんだよ。たぶん学校に置き忘れちゃっただけだとは思うんだけどね」
困ったように笑うフーコ。そこはなんでそれを知ってるの、とかじゃないの。不満に思いながらもそう考えない理由が分かり胸が痛む。フーコはアタシを信頼してくれてる。そんな彼女に嘘をつくことはできなかった。
「ごめん、シーリングスタンプ持ってるのアタシなんだ。フーコとカレシの仲悪くしたくて嘘の手紙を出したかったから。この前フラれたばっかりで、カレシと仲良さそうにしてたアンタがムカついて。でも、会えなくても努力してずっと付き合ってたんでしょ。それなのに、手紙を出してから気づいて、アタシ」
一言目から涙が溢れて目の前が見えないし鼻が痛い。マヌケなアタシにフーコはポケットからハンカチを取り出す。
「そういうことだったんだね。それなら大丈夫。あれスタンプだけじゃなくて蝋も特別なものでその蝋も使って初めて彼のところに届くの。なんかそういうおまじないがかかってるらしいよ」
おとぎ話みたいなことをいう彼女に首を傾げながら借りたハンカチで涙を拭う。
「そうだったんだ。なんだ、アタシさらにマヌケじゃん」
「そんなマヌケだなんて言わないで。私はむしろ理由とか聞いて納得した」
どういうこと、と思わず尋ねてしまった。
「今まで話したことないのに急にマンガの話とかしてきたから、それがずっと引っかかってて。ごめんね、話すること増えてたのにフラれて傷ついてたことに気づけなくて」
彼女の謝罪に首を振る。
「謝らないで。アタシの方が勝手にイライラしていただけなんだし。こんなこと言うのも変だけど、アタシはフーコと話すの楽しかったし、もっと話したいと思ってる」
そう話すとフーコは穏やかな笑顔を見せる。でも、眉尻が下がり口を開いた。
「そう言ってもらえて嬉しい。でも、私もう少しでここからいなくなるの」
「え、引っ越しとか。転校するの?」
「実は彼の世界では戦争が起きていて、その戦争が終わったら彼と一緒に暮らす約束をしてたの。その戦争が終わったって前の手紙に書いてあって」
せっかく本当のことが言えたのに。悲しむ権利はないと頭で理解しながらも肩を落としてしまう。そんなアタシにもフーコは手を握って微笑んだ。
「大丈夫だよ。離れていても友だちだよ」
その笑顔は登っていく太陽に照らされて、より温かかった。
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