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 ついに約束の日、学校を出ればすっかり周囲は日に照らされて温かかった。 「こっちついてきて」  手招きすると、フーコは自宅とは別の方向へ歩き始める。アタシは首を傾げながらもついていった。 「会わせてくれるのは嬉しいけど、どこまで行くの?」  林の中を進みながらため息をつく。本当に良い子なんだけど、不思議ちゃんが出るのがたまにキズというか。彼女の後ろをついていくと、林が開けて丘が見えてくる。そこはまるで絵本の世界のように丘一面に花が咲いていた。  きれい、と気持ちが昂ぶる中フーコは丘の一番上まで登っていく。追いかけると、彼女はカバンからシーリングスタンプを取り出した。そして、空中に押すとその周囲が光り始め突風が吹き荒れる。思わず足を止めると、フーコの目の前に巨大な扉が現れる。美術で見た絵画、歴史で見たお城みたい。ファンタジーのような光景に驚いていると、その扉が開いた。 「やっと会えたね、風子」  甘い中にも穏やかで優しさに溢れる声とともに現れたのはイケメンだった。イケメンは目の前に立っているフーコを抱き締める。恋人の再会。だが、アタシはそれどころではない。根元から金髪だし肌は白くて傷すらない。睫毛は長いし目も大きくて鼻も高くてアタシが羨ましくなってしまう。マンガのキャラクターが現実にいたらこんな感じ、というか。 「フーコのカレシって『雷神のソーマ』だったの?」  思わず問いかけてしまい、慌てて口を押さえる。フーコとともにイケメンとも目が合う。顔が熱くなり、目線を逸らしながら会釈した。 「違うよ、確かに色々似てるけど」 「風子。彼女は?」 「私の友だち。話すようになったのは最近の方だけど、とっても仲良しなの」  フーコがアタシを紹介すると、彼は頭を下げる。なんか芸能人みたいな人に頭下げさせるなんて、と思わずオロオロしてしまう。というか背が高い。180センチ以上平気でありそう。でも、ただのっぽなわけじゃなくて筋肉もついててかっこいい。身体に厚みあるし、腕も太くて血管浮いててイイ。あの顔でこの身体は爽やかだしギャップもあって最高。よくよく考えたら、手紙間違えて届いてたらこの人怒らせてたってことだよね。あの拳でパンチされたら絶対痛い。いや、パンチじゃなくて『雷神のソーマ』みたいに雷落とすとか。色々似てるって言ってたし。 「大丈夫? さっきから笑ったり悲しんだり表情がコロコロ変わってるけど」  フーコが心配そうに覗き込んでくる。アタシは大丈夫、と首を振った。 「いや、その、フーコのカレシさんに会うの初めてだし、こういう状況も初めてだからどんな顔していいのか分からなくて。それに」  深呼吸して冷静になって浮かんだのは、カレシとの再会はフーコとの別れであることだった。 「色々あったけど、やっぱり会えなくなるのは寂しいね」  アタシは精一杯笑ってみせる。すると、フーコはカレシと同じように抱き締めた。アタシも彼女に手を回す。フーコの身体は大きくて少し苦しい。でも、とても温かい。 「私も寂しい。扉の向こうへ行くって決めたときはこっちの世界に未練はないと思ってたけど、違ったみたい」  ふとフーコは持っていたシーリングスタンプ、カバンから蝋やライターの一式をアタシに手渡した。そして、アタシの名前を言った。 「これ、莉子ちゃんにあげる」 「え、いいの? 大事なものなんじゃないの」 「大事だからあげるの。だから、手紙書いてね。待ってるから」  フーコは一式を持つアタシの手に自分の手を重ねる。そして、再び彼の元へと戻り、扉の中に入っていった。扉は閉まっていくのと同時に眩しい光を放つ。目を閉じても眩しく、背を向けてしまう。光が収まった頃には、ただの花畑の丘しか残っていなかった。
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