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新たな居場所
月曜日の朝、田原智子は朝食を食べながらスマホの電源を入れた。トーストを片手に、慣れた手つきでサイトを起動する。もはや毎朝の恒例となっている行動だが、それでもこの操作をする時には毎回心臓が早鐘のように打つ。
見慣れたホーム画面が表示されると、通知マークに赤いランプが点いているのが見えた。智子はどきりとしたが、早合点してはいけないと自分に言い聞かせる。フォローしているユーザーが新作を公開したか、あるいは自分が書いた感想に返事が来ただけかもしれない。それでも智子の動機は収まらず、震える手で通知マークをタップした。画面が遷移する僅かな時間が異様に長く感じられる。
間もなく通知の一覧が表示される。週間ランキングの変動、フォローしているユーザーの近況などの新着通知が並ぶ中、智子の目に一つのメッセージが飛び込んできた。星マークと並んで表示されたメッセージ。
『今回の作品も面白かったです! 登場人物の心理描写が濃密で引き込まれました。次回作も楽しみにしています!』
たった3行の短い文章。それでも、その文章を一目見ただけで安堵が全身に広がり、智子は肩から一気に力が抜けていく気がした。湯気の立たないコーヒーを飲みながら、ゆっくりと他の通知にも目を通していく。
彼女が見ているのは小説投稿サイトだった。この田原智子という女性は作家の卵なのだ。
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