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田原智子が小説投稿サイトの利用を始めたのは、今から1年前のことだった。
きっかけは新人賞への落選だった。作家になるという幼い頃からの夢を叶えるため一念発起して応募したはいいものの、あっさり一次落ちして激しい落胆に襲われた。一時は小説を書く意味すら失われていたのが、友人からの励ましを受けたことで情熱を取り戻した。その友人との会話がきっかけで自分の作品を読んでほしいと思い至り、小説投稿サイトの利用を始めたのだ。
とはいえ、サイトの利用も最初から順調なわけではなかった。誰でも無料で投稿できるという気軽さゆえ、サイトには無数の作品が溢れかえっており、無名なアマチュア作家に過ぎない智子の作品は当然のように埋もれた。サイトを開くたびに伸びない閲覧数を見ては落ち込み、多くの読者を獲得している作品と自作を比べては何が違うのかと自問自答した。そんなことを繰り返しているうちに疲弊して、いっそ利用を止めようかと思うこともあった。
そんな矢先、智子が最初に投稿した作品に反応があった。それは読者によるレビューで、智子の作品にはこんなレビューが寄せられていた。
『社会人なら誰でも感じるような悩みが描かれていて、とても共感できました! あまり読まれていないけどお勧めです!』
レビューが書かれたのは新人賞に落選した作品で、新入社員を題材とする現代ドラマだった。自分の経験を元にしているので描写のリアルさには自信があったのだが、新人賞に掠りもしなかったので独り相撲だったのだろうかと落ち込んでいた。サイトに投稿したところで傷の上塗りになるだけではないかと思いつつ、何とか勢いをつけて投稿した。そんな作品を認めてくれる人がいたという事実に、智子は胸の内から温かいものが湧き上がってくるのを感じた。
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