新たな居場所

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 それ以来、智子は細々と小説を書いてはサイトに投稿することを繰り返した。いろいろな企画などに参加しているうちに徐々にフォロワーと呼ばれる人達が増え、定期的に感想をくれる人まで現れた。中でも多いのは『板野青葉』と『Fumi』という二人のユーザーだ。  『板野青葉』は、新作を投稿するたびに真っ先に読んでくれ、各話に感想を書いてくれる。内容はごくシンプルなもので、文面も『面白かったです!』とか、『共感できました!』といった短いものだけれど、それでも自分を継続的に応援してくれているというメッセージは十分に伝わっていた。  一方、『Fumi』の方は主に長編小説を読んでくれた。各章の終わりに感想をくれるのだが、それがものすごく長文で、どの場面の描写がどんな風によかったということを具体的に挙げてくれた。また、逆に改善点を指摘されることもあり、自分で読み返してみると確かにそのとおりだと納得できる内容ばかりだった。  Fumiの評価や指摘はいずれも説得力のあるものばかりで、まるで本物の編集者のようだと智子は毎回感心していた。これだけ丁寧な感想を書くには時間がかかるだろうに、そうまでして自分の作品を深く汲み取り、長きに渡って読み続けてくれる人がいることが智子は嬉しかった。  この二人以外にもぽつぽつと感想をくれる人が現れ、自分の作品が誰かに届いたことに言いようのない嬉しさを覚えた。もらってばかりでは申し訳ないと思い、人の作品を読むこともした。大半は好みに合わない作品だったが、たまに「これは」という作品に出会えると嬉しくなり、熱意を込めた感想を送った。するとそこで新たな交流が生まれ、智子のネットワークはどんどん広がりを見せていった。  小説という大好きな媒体で人と繋がれることが嬉しく、智子はいつしかサイトの中に自分の居場所を見出していたのだった。
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