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(8)
数ヵ月後。私の体からは呪いが完全に消えていた。あの呪いは、我が家の繁栄を約束するものだった。そのため、家を出てただのシャロンとして暮らしていたことで、効果は半減していたらしい。
そこでとどめのようにアイザックさまと婚姻したものだから、悪魔は呪いを他の家族に移そうとしたのだとか。婿入りした元婚約者の胸元に薔薇の蕾が咲いたときには、見るに耐えない騒動が起きたらしい。家が途絶えると都合が悪いからか、悪魔は身ごもっていた妹には手を出さなかったのだろう。
アイザックさまが神殿に報告を行ったことで、実家はお取りつぶしとなったそうだ。悪魔との契約は禁忌なのだから仕方がない。唯一の救いは、家が途絶えたことで呪いから解放されたことだろうか。悪魔というのは律儀な存在のようだ。
「ご家族のことだけれど……」
「生きているのであれば、それで十分です。彼らがどうしているかは聞きたくありません」
「大丈夫。わたしも言うつもりはないよ」
両親や妹たちの突飛な行動には、呪いの影響があるらしい。悪魔はより上等な餌を得るために、生贄を不幸のどん底に突き落とすのだという。嘆き悲しみ、怒りと絶望で打ち震えた感情を食すために、周囲の倫理観を操作するのだそうだ。
そう説明されれば、彼らの対応にもなんとなく納得がいく。けれど、水に流すことができるかと言われればそれはまた別問題だ。
傷ついた心は、まだ完全に治りきってはいない。かさぶたで覆われているだけの傷口は、家族に会えばすぐに膿み、血を流すだろう。
だから、私が彼らに会うことはない。私の家族はアイザックさま、そしてこれから生まれてくるお腹の子どもだけなのだから。
アイザックさまに寄り添い、笑い合う。私たちの幸せを祝福するように、庭の花々は咲き誇っていた。
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