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「わたしの母は侯爵家のメイドでね。父親はわたしを身ごもった母を追い出した。母は大変な苦労をしてわたしを育ててくれたよ。光魔法の適性が高いことがわかったのは、いくつのときだったかな。母に負担をかけずに済むと思って神殿に入ったのだけれど、芽が出てきた頃に腹違いの兄が亡くなってね。無理矢理還俗させられて、家を継ぐことになったんだ。とはいえお金が手に入ったぶん母に楽をさせられると思いきや、流行り病であっさり天国に行ってしまった」 「そんな……」 「まあ君と比べると、自分の体験が特殊なものだとは思えなくなってくるから困ったな」  元神官なら、私の居場所も筒抜けだったことだろう。アイザックさまが淡く微笑む。 「元神官だからね、初めて君を見たときから、悪魔の呪いを受けていることはわかっていた。噂通りの女性で、かつ呪い持ちなら我が家はあっという間に傾くだろうから都合がいいと思ったんだ。ところが君は花を慈しみ、他人に心を砕き、偽りを囁くわたしにさえ微笑みかけてくる。気がついたら本気で君に惹かれていた」  アイザックさまが呪いのことを最初からご存じだったなんて。 「君は打算で結婚をしたと言うけれど、一体わたしに何をさせようとしていたんだい。豪遊することもなく慈善活動に励み、あげくの果てに財産を置いたまま家出するような君が?」 「……私が死んだら、ちゃんと弔ってほしかったんです」 「それだけか。誓約魔法をかけてまで、君はただ自分を看取ってほしかったと?」 「ええ、それだけです。でも、それだけのことが難しいこともあるんですよ」  アイザックさまは、お亡くなりになったお母さまのことを思い出したのだろうか。小さく首を振っていた。 「離婚もなくなったことですし、誓約魔法もありますから、約束はちゃんと守ってくださいね」 「まったく君は諦めが良すぎる。泣きながら笑うのはやめなさい。さっきも話したことだが、呪いはもうすぐ解ける。だから今は眠るんだ」  呪いを受けてから一度も泣いたことがないはずなのに、なぜか涙が止まらない。呪いが解けかけているせいで、悪魔が食べ損なった感情が溢れてきているのだろうか。  アイザックさまに頭を撫でられていると、とろりとした眠気が訪れる。私はまぶたの重さに耐え切れず、意識を手放した。そして目が覚めたときには、アイザックさまの力を見せつけられることになったのだ。
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