典型的鬼嫁

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典型的鬼嫁

……ない。 「お疲れー」「お疲れさまでーす」 ……たくない。 「月次処理終わったー、やっと定時で帰れるぅー」 ——帰りたくない。 月始めの忙しさから解放され、次々に同僚が退勤していく中、俺はようやく重い腰を上げてタイムカードを押した。 はぁ。 家に帰りたくない。 「おー、穂伽(ほとぎ)、相変わらず背中に哀愁漂わせてんなぁ」 先輩の相田(あいだ)さんが愉快そうに俺を呼び止める。 「今日、朝から怒らせちまったんで余計……」 「怒らせたって、嫁さんをか? いつも怒ってるだろ? 穂伽んとこは」 「そうですけど」 「何して十和子(とわこ)の機嫌を損ねたんだ?」 十和子とは俺の嫁の名前であり、この相田さんと同級生でもあるので、うちの家庭事情はよくわかっていらっしゃるのだ。
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