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「咲希ちゃんが摘んで叱られた花ってあれ?」
真くんが指す方向、公園の花壇と歩道の境目、土なんて殆ど無い場所にオレンジ色の小さな花があった。長い茎がスっと立ち、その上に一重の可憐な花びら。
「多分、そう」
「あれね、毒があるって知ってた?」
「毒?!」
「ナガミヒナゲシって名前でね。アルカロイド性の植物毒で、虫や動物なんかの外敵から身を守ってる。だから素手で茎を折ったり触ったりしたらかぶれたりするよ」
「えっ……」
あの日の、私に怒鳴る母の悲鳴のような声はまだ耳の奥に残っている。だけどもし、ただ怒ったのではなく、守ろうとしてくれたのだったら?
「お母さんは知っていたのかな…」
「聞いてみてもいいし、聞かないままでもいい。咲希ちゃんの心は自由だよ」
真くんの言葉は、母を好きでも嫌いでも自由なんだと伝えてくれた。
あの花が有毒だと母が知っていたのなら、母のことをほんの少し好きになれるかもしれない。知らなかったとしたら、躊躇いなく嫌いだと思えるかもしれない。家族だから、母親だからと言って、好きでいなくてはいけないなんてことはないのだ。
真くんから、誰にもならなくていい、好きでも嫌いでもいい、そんな自分自身でいられる心の鍵をもらった気がした。
出来上がった花冠は少し歪になったけれど、そこが可愛いと思えた。
〈end〉
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