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咲希、中学二年生
コンコンと軽いノック音。これだけで誰なのかすぐ分かる。自室のドアを開けると、前には食事の載ったトレーを片手に兄の陽輝が立っていた。
「咲希、何も食べないと体壊すよ。温め直して来たから、少しは食べな?」
「うん……ありがとう」
唐揚げも、お味噌汁もほんのりと湯気が上がって美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。夕飯のお手伝いをした後、食欲が無くなり、後で食べると言って自室に引きこもった。そんな私を心配し、わざわざ運んでくれるなんて、陽輝は優しい。
「咲希の好きな唐揚げ、冷めないうちに食べなよ?」
「…うん」
お兄ちゃん、私はもう、お母さんの唐揚げ、あんまり好きじゃないんだよ。だってね、お母さんは唐揚げを作る度に言うの。「陽輝の好きな唐揚げ」ってね。
玄関まで飛んで出迎えるのも陽輝の時だけ。お兄ちゃんは知らないでしょう?
「母さんの言うこと、気にしない方がいいよ。咲希は可愛いし、自慢の妹だからね」
「…うん。ありがとう」
母が私に辛く当たる分、陽輝は私に優しくしてくれる。
優しい陽輝が大好きだ。だけど陽輝が優しければ優しいほど、嫌いにもなる。
“お兄ちゃんさえいなかったら” …そんな もしもを想像してしまう自分は、もっと嫌いだ。
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